今週の注目投資トピックは「日鉄、米側懸念払拭へ奔走 政府高官と会談、再申請案も―USスチール買収」を取り上げたい。元記事はこちら

以下9月13日の時事ドットコムニュースより引用

日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールの買収実現へ働き掛けを強めている。日鉄の森高弘副会長は米ワシントンで現地時間11日、政府高官と会談。買収計画の意図を説明し、米政府が示す安全保障上の懸念の払拭に努めたとみられる。買収実現に向けては、11月の米大統領選後に計画を再申請する案を含めさまざまな選択肢を検討している。

日鉄によるUSスチール買収計画は、米政府の対米外国投資委員会(CFIUS)が安全保障上の脅威がないか審査している。ロイター通信によると、森氏はCFIUSを所管する財務省や商務省幹部と面会。買収による海外移転で、米国の鉄鋼生産能力が落ちるのではないかといった米側の懸念に対し、米国内での雇用確保や生産能力拡充への投資計画などを説明した可能性がある。

 USスチールが本社を置くペンシルベニア州は大統領選の激戦区。全米鉄鋼労組(USW)が買収に反対する中、労働者票を狙って、民主党のハリス副大統領、共和党のトランプ前大統領とも反対姿勢を示しており、近くバイデン大統領が買収阻止を発表すると報じられている。

 このため日鉄がいったん申請を取り下げ、米政府の懸念事項などを踏まえた計画を、大統領選後に再申請する案も浮上。関係者は買収実現に向けてさまざまな選択肢を検討しているという。

 こうした状況下、日鉄とUSスチールは11日、これまでのUSWとの書簡や電話などでのやりとりの詳細を公表した。日鉄とUSWとの対話や提示した約束について「誤った情報が流布されている」のが理由と説明。公表された文書には「今回の買収に伴うレイオフは行わない」とする日鉄の書簡や、森氏が再三、USWのマッコール会長に面会を求めるメールなどが含まれている。

 日鉄によるUSスチール買収を巡っては、経団連が12日、CFIUSの議長を務めるイエレン米財務長官に宛てて、米国の経済団体などとの連名で書簡を送り、政治的圧力への懸念を表明したと発表。経済界も働き掛けを強めている。

連日報道されている日本製鉄によるUSスチールの買収計画のニュースであるが、既に政治問題化している。アメリカ大統領選挙を控えて両候補ともに買収を阻止しようとしており、政争の具となり得る話であり、日本製鉄は買収提案を撤回するのが企業戦略的にも政治的にも望ましい印象がある。

買収提案を撤回する方が望ましいと考える論拠をいくつかあげる。

1. 米国の国家安全保障への配慮
米国の鉄鋼産業は、国防やインフラ整備において重要な役割を果たしており、特にUSスチールは歴史的に米国の国家安全保障に密接に関わっている。外国企業による買収は、米国政府が国家安全保障の観点から懸念を持つ可能性が高い。これを強引に進めることは、米国政府との関係悪化を招きかねない。

2. 日米関係の安定維持
日米関係は、経済だけでなく、安全保障や外交においても非常に重要である。日本製鉄によるUSスチールの買収が米国政府や議会で強い反対に直面すれば、日米関係全体に悪影響を与えるリスクがある。特に、バイデン政権やトランプ候補がこの問題を外交的に利用する可能性がある中で、買収計画の撤回は日米の信頼関係を維持するための戦略的決断となるかもしれない。

3. 政治的リスク
前述の通り、トランプ氏やバイデン氏のどちらが次期大統領となっても、USスチールの買収に対して強い反対を示す可能性が高い。CFIUS(外国投資委員会)による審査や、議会の圧力が加わることで、買収計画は法的・政治的障害に直面する可能性があり、時間や資金を無駄にするリスクがある。この買収計画が多大な時間と資金を使った挙句に失敗に終わったとしたら日本製鉄は株主訴訟を起こされるリスクがある。

4. 現地の雇用や産業保護に関する懸念
米国国内では、鉄鋼産業は雇用の柱となっており、特にラストベルト地域(イリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア)では多くの労働者が鉄鋼業に従事している。外国企業による買収は、こうした地域の労働者に不安を与えることが考えられ、米国の政治家や労働団体からの反発が強まる可能性がある。

5. 長期的な戦略調整
日本製鉄は、グローバル展開を進める中で他の戦略的パートナーや市場拡大の機会を見つけることが可能であり、米国以外の地域での成長機会を模索するか、他のパートナーシップの形態を検討することも現実的な選択肢である。