今週の注目投資トピックは「半導体バブルに異変「AIかそれ以外」明暗くっきり"異次元の生産"に沸くアドバン、赤字のローム」元記事はこちら。
以下、11月15日の東洋経済オンラインの記事より引用。
半導体市場の二極化が鮮明になってきている。半導体シリコンウェハーの世界トップ・信越化学工業が10月に行った2024年4〜9月期決算会見の席上、同社の轟正彦専務が語った冒頭の言葉が、現在の半導体市況を象徴的に物語る。
半導体市場全体は好調だ。8月以降、金額ベースでの世界市場は過去最高を更新。ただ、好調なのは「AI半導体」だけ。高性能で単価が高いため、市場全体を押し上げているのだ。「それらを除いた半導体市場は前年同期比4%減と低調」(轟専務)。
信越でも、ウェハーを含む電子材料セグメントの4〜9月期売上高はAI需要の追い風が吹き、前年同期比9.3%増と好調だった。ただ、ウェハー売上高のうちAI向けは1割ほど。今後は「半導体メーカーではこれ以上、ウェハー在庫を増やせないという判断で在庫の調整を強めたいという声が増えてきている。市場全体がひと休みになりそうだ」(同)。
半導体関連メーカー全体を見渡しても、「AIかそれ以外か」で明暗が分かれている。
“明”を代表する一社は、アドバンテストだ。
アドバンテストが手がけるのは、半導体がきちんと動作するかを製造工程の最終段階などで試験するテスタと呼ばれる装置。同社は今2025年3月期の本業のもうけとなる営業利益について、期初は900億円を見込んでいたが、2度の上方修正を経て1650億円(前期比2倍)へ引き上げた。
テスタの供給能力は逼迫状態で、「大忙しの製造現場では“異次元の生産”が合言葉になっている」(アドバンテストのIR担当者)。供給対応次第で業績は「さらなるアップサイドも」(同社のダグラス・ラフィーバCEO)という活況ぶりだ。
現在、急激に成長している、いわゆるAI半導体には2種類ある。1つ目は、エヌビディアのGPU(画像処理装置)に代表される演算用のロジック半導体。2つ目は、そうしたロジック半導体が演算を行う際に組み合わされて使われる、超高性能なメモリー(DRAM)の「HBM(広帯域幅メモリー)」だ。
テスタ市場で過半のシェアを握るアドバンテストでは、ロジック・メモリー用途ともに引き合いが急増している。ロジックでは生成AIブームに火がつく以前からエヌビディアを顧客に抱えており、同社製GPUのテスト工程を一手に担う。
さらにメモリー分野でも、大手DRAMメーカーはエヌビディア製品への自社製品の採用をめぐって競い合っており、HBMを大増産中。その製造工程で必須になるアドバンテストのテスタを大量に買い込む、という強烈な追い風が吹いている。
もう一社、AI需要の波に乗るのは、研削・研磨装置を手がけているディスコだ。同社の今2024年4~9月期の売上高は前年同期比41%増の1790億円、営業利益は同68%増の759億円とまさに絶好調。同社でも、アドバンテストと同じくHBMの製造工程に使われる研削・研磨装置の引き合いが強烈に増えていることが大きい。
ただ前述の通り、HBMはメモリーメーカーが急ピッチで増産投資を行ってきた。そのため、遠くないタイミングで需要が急減するシリコンサイクルの谷が深くなる可能性も高い。
ディスコもHBM向けについては同様の見方をしているが、AI半導体向け全体に対するスタンスは強気だ。「生成AI向けが短期間のブームに終わる懸念は後退した」(IR担当者)というのだ。「2025年からは、先端パッケージング側での投資が強まってきそうだ」(同)。
先端パッケージングとは、ロジックチップとメモリーチップを高度な技術で電気的に接続する工程のこと。高性能なAI半導体を製品として仕上げる工程ではほとんど必須になっている。先端パッケージングは工程が複雑で、ディスコが強みを持つ研削や研磨工程が、何度も繰り返し行われることになる。
主に台湾の半導体製造受託大手TSMCがこの工程への投資を強めており、エヌビディア以外の半導体メーカーも同技術を活用して高性能な製品を作り上げることになる。先行したHBM向けに続いて、こうした先端パッケージングで使われる装置の需要が2025年まで見えてきている状況という。
一方で「AI以外」の半導体を手がけている国内半導体メーカーは、”暗”に転じている。
象徴的なのは、アナログやパワー半導体を主に手がける半導体メーカーのローム。同社は11月7日、通期業績見通しの大幅な下方修正を発表した。今2025年3月期の営業利益は従来予想の140億円から一転、150億円の営業赤字に転落する見通しだ。
自動車や産業機械、家電など同社がメインとしている領域すべてが振るわない。営業赤字となるのは2013年3月期以来、じつに12年ぶりとなる。
こうした状況を受け、「2030年に世界シェア30%」のトップ企業になることを目指して大増産を進めていたEV向けの次世代SiC(炭化ケイ素)パワー半導体への投資を、従来計画よりも縮小させる方針に転換した。
急ピッチで進めていた来期以降の供給能力拡大は延期。来2026年3月期に1100億円以上を掲げていた同事業の売上高目標も、2027~2028年3月期の2カ年で1100億円を確保する計画へ軌道修正した。
同じく、自動車や産業機械をメイン顧客とする半導体メーカーのルネサスエレクトロニクスも振るわない。同社の今2024年12月期の売上収益は約1兆3300億円と同9%前後の減収になる見込み。産業向けが足を引っ張り、車載半導体でも見通しを引き下げた。
2024年末以降の需要はさらに弱くなりそうで、工場稼働を大幅に落とす生産調整も行う。「これまではアップターンを逃さないように運営してきたが、今はより強くブレーキを踏む必要がある」(柴田英利CEO)。10年ぶりに再稼働を予定していた甲府工場でのパワー半導体の量産は、延期する方針だ。
低迷からの出口は現段階では見通せない状況で「どの顧客と話しても『来年の前半には回復』と言うが、そのすぐ後に『でも根拠はないんだよね』となる」(柴田CEO)。
半導体業界全体を見渡すと、AI向けで高いシェアを持つエヌビディアとTSMCと距離の近い会社には追い風が吹く。が、それ以外はまだら模様で調整局面に入っている。
ロームやルネサスなど国内メーカーが強い車載向けだけでなく、スマートフォンやパソコン向けの回復もほとんど見通せない状況だ。半導体バブルから一転、足元は混迷を極めている。その中で関連メーカーの期待は、エヌビディアが牽引する「AI半導体頼み」の様相が強まるばかりだ。
中間決算がほぼ出揃い、半導体関連企業の決算は明暗くっきりであった。AI半導体かそれ以外が業績に如実に表れており、完全に二極化している。記事で取り上げられているアドバンテストの他に半導体製造装置で世界3位の東京エレクトロンもAI関連、中国向け成熟世代の好調で今期は最高益更新を予定している。東京エレクトロンの中間決算コメントはこちら。
一方AI以外の半導体で特に車載半導体を手掛けるロームやルネサスエレクトロニクスは業績が悪化し、特にロームは12年ぶりに営業赤字に転落した。ロームの中間決算コメントはこちら。
直近の半導体市場はAIデータセンター需要に支えられていると言って過言でないだろう。PC市場はコロナ禍での需要増加の反動や、消費者の買い替えサイクルの長期化により、需要が減少傾向にある。特に、個人向けPCの需要が鈍化している。スマホ市場に関しては5G対応機種の普及や新興国市場での需要増加が見られるが、全体的な成長は緩やかである。iPhone等の高性能モデルへの需要は堅調であるものの、全体の出荷台数は横ばいか微増にとどまっている。一方、データセンター市場は、生成AIやクラウドサービスの拡大に伴い、引き続き高い需要を維持している。特に、AI関連の処理能力向上を目的とした高性能半導体の需要が増加しており、半導体メーカーの業績を支える主要な要因となっている。
車載半導体市場であるが、やはりEV(BEV)の世界的な需要減速が大きく影響している。自動車メーカー各社はEVの需要減速によりEV戦略の縮小を発表している。直近のニュースでは世界第二位の自動車メーカーのフォルクスワーゲンのリストラの発表が記憶に新しい。ドイツ国内の3工場の閉鎖、数万人規模の人員削減等である。ドイツ政府が一年前倒しで補助金の打ち切りをした事もEV不振の一つの要因であった。EVに関しては元々補助金ありきで需要が伸びていた訳であるが、アメリカもトランプ氏の再選によりEVの補助金は廃止される見込みであり、テスラもEV補助金の廃止に賛成との報道があった。
上記のような事情で車載半導体市場はEV需要の鈍化に大きく影響を受けている。特にロームが12年ぶりに営業赤字に陥った要因はSiCパワー半導体で世界トップシェアを取る事を目標に設備投資、研究開発費をかなり費やし、償却負担が利益の下押し要因になっている。ロームの競合会社のウルフスピード、STマイクロエレクトロニクス、インフィニオン・テクノロジーズ、オン・セミコンダクター等もSiCパワー半導体の生産拡大をしており、需要が縮小しているのに供給過剰な状況で価格が下がっている事が懸念材料である。SiCパワー半導体の製造コストは現在主流のSiパワー半導体の製造コストよりはるかに高く、この状況では財務力のある企業しか残らないとの懸念がある。
SiCパワー半導体はEVの他に再生可能エネルギー、産業用モータードライブ、鉄道、通信インフラにも使われるが、上述したように製造コストの高さの問題があり、SiからSiCに移行するには数年かかると思われる。