今週の注目投資トピックは「富士ソフト、KKR買収案に賛同と応募推奨を続けると決議」を取り上げたい。元記事はこちら

以下、10月18日のブルームバーグの記事より引用。

富士ソフトは18日夜、米KKRによる買収提案に改めて賛同し、株主にも引き続き応募を推奨すると正式に発表した。富士ソフト創業者は、米ベインキャピタルが示していた買収提案を支持しKKRへの賛同を取り下げるよう求めていた。

 発表資料によると、18日に開かれた取締役会で、KKRが9月から実施している1回目の公開買い付け(TOB)への賛同表明を見直す事情はないとした。

 理由として、大株主の3Dインベストメント・パートナーズとファラロンの応募により成立見通しであること、少数株主はべイン提案の推移を踏まえたうえでKKRの第2回TOBに応募する選択肢が残されていることなどを挙げた。応募推奨はするものの、いったん応募を見送る判断もまた合理的であると付け加えた。

 一方、ベイン案も真摯(しんし)な提案だと考えているとした。ベインによるTOBに対する意見は、TOBの開始時に決定する予定だという。

KKRがコメント
 富士ソフトの発表を受け、KKRは18日、「富士ソフトの経営陣や従業員の皆さまと一体となり、KKRのグローバルプラットフォームとITサービス業界への豊富な投資実績を活かし、富士ソフトが持てる可能性を最大限に発揮し、顧客企業にさらなる価値を提供すべく支援して参る」と電子メールでコメントした。

 富士ソフトを巡っては、KKRがTOBを進める中、ベインが法的拘束力のある対抗提案を11日に発表。TOB価格は1株あたり9450円と、KKRの8800円を上回る。

 KKRは大株主の3Dとファラロンからの応募により、21日を期限とする1回目のTOB決済後に、少なくとも32.68%を保有する見通しだ。このため、富士ソフトの特別委員会は、べインの目指す非公開化の実現は著しく困難で、べインがTOBを実施した場合、大株主間での意見集約が困難になり、企業価値が損なわれるなどの懸念があると指摘している。

 KKRは2回目のTOBを10月下旬から11月下旬に実施する予定。ベインは10月下旬をめどにTOBを始めるとしているが、開始の条件に富士ソフトの賛同を挙げていた。

 富士ソフトの資料によると、7月26日付でベインが提出していた提案は、KKRの最終提案を価格では5%上回っていた。ただその時点では法的拘束力がない提案であり、大株主の3Dから応募同意が得られていないことなどから、迅速性や実現可能性の点でKKR案が最善だとしていた。

富士ソフト(9749)の買収提案をめぐってはKKRとベインキャピタルが争奪合戦の様子を呈しており、富士ソフトの創業家の野澤家と会社が対立しているという状況である。

まず時系列を追って富士ソフトに対する買収提案を整理してみる。

富士ソフトの筆頭株主のアクティビスト・ファンドの3Dインベストメント・パートナーズ2022年に株式の大量取得をし、筆頭株主として企業統治体制の改善や資本効率の向上を目指し、様々な株主提案を行ってきた。2023年の7月に3Dが買収提案の募集をしたところ複数のプライベート・エクイティ・ファンドから非公開化に関する提案を受領し、その提案を9月に富士ソフトの取締役会に提出した。以降、富士ソフトは非公開化の検討を開始した。非公開化の提案をしたファンドのうちの一社がKKRで2024年8月8日に富士ソフトの株式を一株8,800円でTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。

KKRの競合のベインキャピタルが9月3日に富士ソフトに対して非公開化の提案をしていると公表した。ベインキャピタルは10月11日に法的拘束力のある買収提案を提出し、TOB価格は9,450円とKKRのTOB価格より650円上回る。富士ソフト側の賛同が得られた場合は11月以降にTOBを開始すると発表した。

以下は東洋経済オンラインの2024/9/12の「富士ソフト「物言う株主」に翻弄された数奇な運命」の記事からの引用。

KKRは買い付け予定数の下限を発行済み株式の53.22%に設定し、3Dなどとの応募契約ですでに32.68%を確保している。ただ、ベインは8800円を5%程度上回る買い付け価格を提示する見通しを示しており、ベイン提案に対する投資家の期待から、足元の株価は9400円前後にまで上昇している。KKRがTOB成立に必要な株数を確実に集められるかは読みにくい。

ここで重要な意味を持ったのが、富士ソフト株を15%超所有している創業家の判断だ。2023年に取締役相談役を退いた創業者、野澤宏氏(82)らの対応について、8月のTOB発表時点では「引き続き検討しているとの連絡を受けている」(富士ソフト)状態だった。

しかし9月4日に富士ソフトが開示したTOBに関する追加のリリースにより、創業家の驚くべき動向が明らかとなった。ベインが創業家と交渉し、今年末までの間、ベイン以外とは非公開化に関する取引は行わないことで合意したというのだ。

野澤氏の娘婿にも当たる坂下智保社長は、「特別な利害関係を有していると判断される可能性がある」ことを理由に、今後の非公開化をめぐる一切の意思決定から外れることになった。KKRに賛同する会社とベインと組んだ創業家が、実質的に対立する構図となる。       

東洋経済オンラインの記事によると富士ソフトの創業家はベインと交渉し、今年末までの間はベイン以外とは非公開化に関する取引は行わない事で合意したとあり、KKR、3Dインベストメント・パートナーズ、富士ソフト経営陣連合 vs   ベインキャピタル、富士ソフト創業家連合という構図になっているようである。

富士ソフトがアクティビストのターゲットになってしまった原因であるが、不動産を多く所有し、競合他社と比べて資本効率が低い事が問題視された。

日本企業が複数の外資系ファンドに囲まれる形で争奪戦に発展するケースは珍しく市場の注目度は高い。このような争奪戦は、日本企業のガバナンス改革や資本効率改善の期待が高まる中、今後も増え続けると思われる。

一部の日本企業は、資本効率の指標を軽視しがちで、株主価値の最大化よりも内部留保の増加や、安定した経営を優先する傾向があり、これが、企業価値を下げる要因となり、投資家からの不満を招くことが多い。

特に、資本を効率的に使わない企業は、余剰キャッシュを抱えたまま活用せず、成長投資や株主還元を行わない場合が多く、これが「上場企業としての責任を果たしていない」との印象につながる訳で上場企業側も株主価値の最大化をしっかり実行する必要がある。