今週の注目投資トピックは「セブン&アイ「9兆円MBO案に潜む“危険な賭け”」。非上場で外資による買収は回避できるけど」元記事はこちら。
以下、11月24日の@nifty ニュースの記事より抜粋引用。
セブン&アイ・ホールディングスが創業家の伊藤家からMBO(経営陣による買収)の提案を受け、非上場化を検討しているとのニュースが飛び込んできた。カナダの大手コンビニ運営会社クシュタールが、セブン&アイに対して買収提案を行っているのだ。その提案額は、なんと7兆円規模に上る。さらに、クシュタールは提案を拒否された場合、敵対的買収にも踏み切る可能性を示唆している。これを受け、セブン&アイ側が非上場化を含めた対抗策を模索しているというわけだ。
現在報じられているMBO案では、総額9兆円が必要とされている。この巨額の資金をどう賄うのか。情報によれば、創業家である伊藤家や伊藤忠商事からの出資3兆円、そして三井住友フィナンシャルグループをはじめとするメガバンクからの融資6兆円という形で構成される見通しだ。
だが、このMBOが成立した場合、返済負担は大きな課題となる。6兆円規模の融資は、仮に金利が数%であったとしても年間数千億円単位の利払いが発生する計算だ。これにより、セブン&アイは事業拡大への投資資金を削がれる可能性が高い。特に、現在のようなインフレや金利上昇が続く経済状況では、融資返済の負担がさらに増大するリスクがある。
こうした状況を考えると、今回のMBO案は「危険な賭け」とも言える。この巨額の資金調達は、セブン&アイを守るための盾となるか、それとも経営を圧迫する重荷となるかは、今後の事業戦略次第だ。
MBOを通じて非上場化すれば、外資による買収リスクを回避できる一方で、巨額の借入金による経営負担がのしかかる。事業拡大や国際展開の余地が狭まる中で、同社が持続的な成長を維持できるかどうかは未知数だ。
一方、クシュタールの買収提案を受け入れた場合、セブン&アイは外資傘下に入るリスクがあるものの、その資本力を活用して国際市場での地位をさらに高めることが期待できる。特にクシュタールのネットワークを活用することで、北米市場や他の新興市場への進出が加速する可能性がある。
今回の報道で注目されるのは、クシュタールの次の動きだ。同社は提案額を6兆円から7兆円に引き上げ、セブン&アイへの買収意欲を一層強めている。それでも拒否された場合、敵対的買収に踏み切る可能性が高いとされる。
これまでの提案を拒否し続けてきたセブン&アイが、MBOという策を最終的に採用するのか、それともクシュタールとの交渉に軟化するのか、今後の動向に注目が集まる。
株価が買収報道を受けて急上昇する一方で、セブン&アイが発行した社債の価格は下落を続けている。買収提案が明らかになった以降、社債への売り圧力が増している。同時に国債利回りとのスプレッドも拡大している。
社債市場の混乱の要因のひとつとして、クシュタールによる買収成立時の信用格付けの低下が挙げられる。クシュタールは現在、米格付け機関S&Pグローバル・レーティングで「トリプルBプラス」という評価を受けており、セブン&アイの「シングルA」を2段階下回る水準だ。同様に、ムーディーズ・レーティングでもセブン&アイの評価が2ランク高い。
仮に買収が成立すれば、買収されるセブン&アイの信用格付けが買収側であるクシュタールに引き下げられる可能性が高い。たとえ買収が成立しなかったとしても、株主からの圧力で成長投資や株主還元に多額の資金を投じる必要が生じ、財務健全性へのリスクは依然残る。
こうした状況を受け、セブン&アイの創業家である伊藤家が提案したMBO案も注目されている。同案では、伊藤家と伊藤忠商事からの出資3兆円、さらに国内メガバンクからの6兆円融資によって、9兆円規模の買収資金を調達するとされている。しかし、この巨額の借り入れはセブン&アイの財務を大きく圧迫する可能性が高い。こうした状況が現実となれば、既発債の返済順位が後回しになる懸念が生じるため、社債市場では「非常にネガティブ」との見解が相次いでいる。
さらに、MBOによる非公開化が実現した場合、情報開示の質が低下する懸念も指摘されている。非上場企業では決算説明会の開催義務や四半期ごとの詳細な開示が求められなくなるため、投資家が信用力を判断する材料が不足する可能性がある。
セブン&アイを巡る一連の動きは、社債市場と株主価値の間にあるジレンマを浮き彫りにしている。株主からの圧力で企業価値向上が求められる一方で、社債市場では財務体質の悪化を懸念する声が高まっている。仮にクシュタールの買収案もMBO案も成立しなかった場合でも、こうした圧力は同社に対し今後も続くとみられている。
セブン&アイの買収、MBOに関する記事は多いが、セブン&アイの信用格付けの低下の可能性及び社債価格の低下まで報じている記事は珍しいのでこの記事を取り上げた。確かにこの記事が指摘するように創業家が望むように9兆円もの資金調達を創業家伊藤家、伊藤忠から3兆円、メガバンクからの融資6兆円となると利払い負担が年間数千億円と財務リスクが高まる。これでは事業立て直しに使える資金が不足するリスクが生じる。
一方クシュタールに買収されたとしてもクシュタールはGMS運営の経験がない為にイトーヨーカ堂事業の立て直しはおそらく成功しないと思われる。こうなると買収する側も買収される側も共倒れになるリスクがあり、イトーヨーカ堂事業を第三者に売却するという事も有り得ると考えられる。
個人的な折衷案として考えたのはセブンイレブンの北米事業をクシュタールに売却するというのはどうかと考えている。北米ではセブンイレブンの店舗をアメリカで12,792店舗(うちハワイに66店舗)、カナダに600店舗、メキシコに1,910店舗保有している。セブン&アイの中間決算の決算説明会資料によると米国国内の既存店の売上の伸び率が前期3Q以降ずっとマイナスである。インフレにより客単価は伸びているものの客数が減り続けている。セブンイレブンがアメリカでターゲットとしている中低所得者層の客離れが続いているという状況のようである。事業不振の北米事業をクシュタールに売却し、セブン&アイはコンビニ事業の海外展開については成長市場であるアジアを中心にするというのはどうかと考えている。
クシュタールは北米ではアメリカで7,100店舗、カナダで2,100店舗のコンビニを運営している。ブランド名はサークルKである。これに業界トップのセブンイレブンの店舗が加わると既存のサークルKへの運営の改善、シナジーがありクシュタールには大きなメリットがある。
セブンイレブンの北米事業の売却価格であるが、以下に試算してみる。
北米事業の売上高: 約3.2兆円(推定値)
営業利益率: 約5%(コンビニ業界の一般的な利益率)
EBITDAマージン: 営業利益率に+5~10%(償却前調整として推定) → EBITDAマージンを約10~15%と仮定すると、年間EBITDAは3,200億円~4,800億円程度。
EV/EBITDA倍率: 12倍(近年の小売業界での取引に基づく倍率) →
売却価格(EV): 3,200億円×12=3.84兆円
4,800億円×12=5.76兆円
売却提案価格:3.84兆円~5.76兆円
セブンイレブンの北米事業のクシュタールへの売却により巨額のMBOで財務リスクを取る事なくGMS事業の再建、新規事業の開発に使う事ができ、競争激化する北米市場から撤退し、アジアなど成長市場にリソースを集中することで、長期的な企業価値向上が可能だと考えられる。
クシュタールにとっても北米でのコンビニ事業の拡大とシナジーがあり、また運営経験のないGMS事業の運営、再建というリスクの回避になり、双方にとってウィンウィンになると考えている。