投資口価格 | 172,800円 |
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予想分配金利回り | 4.05%(2022年7月29日終値) |
投資テーマ
4%台前半の安定した分配金利回りを確保しつつ、福岡市を中心とする九州地域の経済成長によるアップサイドに期待する地域特化型不動産投資の機会。
REIT投資家及び実物不動産所有者にとって、日本有数の成長ポテンシャルを有する福岡市の優良不動産ポートフォリオに対する希少な分散投資の機会となり得る。
投資初心者にとっても、J-REIT平均を上回る分配金利回りを享受しつつ、各種アセットが有する特性を学習し、J-REIT投資、不動産投資への理解を深める機会となろう。
福岡リート投資法人への投資のポイント
福岡リート投資法人(以下「FRC」)が拠点とする福岡市は、全国の政令指定都市の中でトップクラスの人口増加率、若者率を誇り、東アジアの主要都市からのアクセスの点からも、高い優位性を有する。また、福岡空港の滑走路増設や、天神地区の再開発計画など、大きな成長ポテンシャルを有する都市である。
FRCのポートフォリオは、約76%(取得価格ベース)が福岡都市圏、残る約24%が沖縄を含むその他九州地域に位置する32物件(35期末時点)で構成されている。
物件タイプ別では、売上が変動する商業施設が約54%、オフィスが約32%を占めるものの、35期(2022年2月期)の実績では、FRCが受け取る賃料は、全体の90%以上が固定賃料とされており、安定的な賃料収入が期待できそうな印象。
また、物件の稼働率も2005年の上場以来一貫して100%近い水準を維持しており、保有物件の競争力の高さを示している。
FRCは、34期(2021年8月期)に実施した物件入替で、フルサービス型ホテル(グランドハイアット福岡)を売却して、オフィスビル(底地)を取得するなど、安定性重視の運用方針を明確にしている。
財務運営についても、90%以上の債務を固定金利化、LTVも業界平均よりも低水準を維持するなど、保守的な運用を行っている。
堅実な運用方針に加え、足もとの投資口価格は、NAV1倍をわずかに下回る水準であることからも、下値不安は比較的小さいと見られる。
コロナ禍からの回復過程となった35期の分配金は、3,536円と前期とほぼ同水準を維持した。36期、37期の予想分配金は各3,500円と、35期を小幅下回るものの、運用会社の説明からは、実質的にはフロアに近い水準と見られる。7月末日の投資口価格(終値)では、4.05%の予想利回りとなり、4%台前半での長期安定運用の機会を確保できそうな印象である。
但し、NAV倍率がより低く、より高い分配金利回りを得られるリートも存在する事から、投資家が安定性のみを理由に、FRCを選好する蓋然性は必ずしも高いとは言えない。
FRCへの投資は、福岡市を中心とする九州エリアに対する成長期待が主要因と考えられることから、カタリストの不足は、同リートの投資口価格が、東証REIT指数をアンダーパフォームする要因となり得る。
今後のアップサイド要因としては、旗艦商業施設の売上拡大による変動賃料収入の増加、及びオフィス物件の賃料引き上げがあげられる。
福岡市は、地理的に近い韓国からのインバウンド客が多いという特徴があり、足もとで進む韓国及びアジア地域からの入国規制の緩和は、FRCにとってアップサイド要因となろう。
また、福岡市のオフィスマーケットは東京と異なり、好調を維持している事から、テナントの入替は、賃料上昇の好機となる可能性がある。
外部成長については、運用会社が主対象とするオフィス、物流、住居等は取得競争が厳しく、利回りがタイトなことから、場合によっては、LTV水準の引き上げを検討する可能性もあろう。
リスク要因として、2022年4月に開業した「ららぽーと福岡」が、FRCの旗艦物件である「キャナルシティ博多」に与える影響、及び新型コロナ禍の拡大による商業施設の売上の減少があげられる。
また、J-REIT共通のリスク要因として、長期金利の上昇があげられる。
福岡リート投資法人(FRC)の概要
A.サマリー
2005年6月上場の中規模総合型リート、決算期は2月及び8月。
福岡都市圏を中心とする九州、沖縄県、山口県を投資対象地域する。
資産規模(取得価格)は2,063億円、時価総額は1,375億円と、共にリート中位の位置づけ。
JCRからAA-、R&IからA+の信用格付を得ている。
地域特化型REITである事から、明確な比較対象はないものの、商業中心の総合型として阪急阪神リート(8977)、総合型で同程度の資産規模の平和不動産リート(8966)、業歴は浅いが、地域特化型の東海道リート(2989)があげられる。
REIT名称 | 証券コード | タイプ | 上場時期 | 決算時期 |
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福岡リート投資法人(FRC) | 8968 | 総合型 | 2005年6月 | 2月/8月 |
信用格付(JCR) | 資産規模(取得価格) | 順位(61REIT中) | 時価総額(2022/7月末) | 順位(61REIT中) |
AA- | 2,063億円 | 39 | 1,375億円 | 39 |
株価
時点 | 7月末日終値(円) | 最低投資金額(円) | 52週レンジ(円) | NAV(円) | P/NAV(倍) |
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2022/7/29 | 172,800 | 172,800 | 149,400~192,800 | 178,079 | 0.97 |
分配金
直近決算発表日 | 分配金(過去2期実績) | 分配金(将来2期予想) | 配当利回り/年(実績) | 配当利回り/年(予想) |
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2022/4/14 | 7,075 | 7,000 | 4.09% | 4.05% |
B.資産運用会社について
資産運用会社は、株式会社福岡リアルティである。
九州の不動産ディベロッパー福岡地所を中心に、九州電力、JR九州、西日本鉄道、九電工、西部ガスホールディングスをスポンサーとする。さらに日本政策投資銀行、西日本シティ銀行、福岡銀行の金融機関3行も出資するなど、九州財界の強力なバックアップ体制が大きな特徴と言える。
出資比率
福岡地所(55%)、九州電力(10%)、九州旅客鉄道、西日本鉄道、九電工、西部ガスホールディングス、日本政策投資銀行、西日本シティ銀行、福岡銀行(各5%)
C.ポートフォリオについて
福岡市中心部に位置する大型複合商業施設「キャナルシティ博多」を含め、35期(2022年2月期)末時点で32物件を保有している (2022年7月末時点では33物件)。
ポートフォリオの稼働率は99.4%と極めて高く、保有物件の競争力の高さを示している。
旗艦物件である「キャナルシティ博多」は、メインスポンサーである福岡地所が開発し、1996年に開業した大型複合商業施設である。300近くの店舗に加え、映画館、ホテル、オフィスからなる大型物件で、ポートフォリオ(簿価)の約27%を占めている。
福岡市を代表する大規模商業施設であるが、2022年4月に競合となる「ららぽーと福岡」が開業しており、その影響が注視される
取得価格ベースで、ポートフォリオの75%以上が福岡都市圏に集中し、その他九州及び沖縄県に物件を有する。
物件タイプは、商業施設が54.2%、オフィスが31.5%を占める。加えて賃貸マンション、物流倉庫、ホテルなど多様な種類の物件でポートフォリオが構成されている。
運用会社は、2,500億円規模のポートフォリオへの拡大を目指しており、目標達成時には商業施設の割合を50%未満に抑えたいとの意向を示している。
ポートフォリオの過半を商業施設が占めるものの、35期実績では固定賃料が90.3%であり、商業店舗の売上に連動する変動賃料の割合は、10%未満と限定的である。但し、今後変動賃料が増加すれば、固定賃料割合は低下する。
物件数 | 鑑定評価額 | 含み益<35期> |
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33 | 2,325億円 | 428億円 |
物件タイプ
商業 | オフィス | その他 |
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54.2% | 31.5% | 14.3% |
所在地域
福岡都市圏 | その他九州 |
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76.6% | 23.4% |
D.財務について
有利子負債は824億円、スポンサーである日本政策投資銀行、西日本シティ銀行、福岡銀行の主要3行が全体の約47%を占める。スポンサー行以外にも、メガ銀行を含む国内主要金融機関、九州を中心とする地方銀行からも借入を行っており、調達先は広く分散している。
また、金融機関からの借入以外に、投資法人債により、合計50億円を調達している。
有利子負債の平均残存期間は5.2年、金利の固定化比率は94.1%、平均金利は0.67%である。簿価ベースのLTVは41.5%、とリートの平均値を下回っており、保守的な財務運営を行っている。
JCRから日銀の買い入れ対象となるAA-(安定的)、R&IからA+(安定的)の信用格付を付与されている。
E.投資口価格について
52週高値は2021年7月の192,800円、安値は2022年1月の149,400円。
2021年10月以降、概ね152,000円~172,000円のボックス相場で推移していたが、足もとレンジの上限トライの動きが見られ、今後の動きが注目される。
過去5年程度を振り返ると、投資口価格が東証リート指数をアンダーパフォームする場面も多く見受けられたが、足もとはREIT指数に追いついている。
FRCの安定性は高く評価できることから、アップサイドカタリストが待たれる。
35期(2022年2月期)について
A.35期ハイライト
前期(34期)に計上した物件売却益のはく落(△130円)があったものの、ほぼ前期並みの分配金を確保した。
主要因は、アクティブ商業物件の賃料収入の増加、及び借入コストを含む経費削減。コロナ禍の鎮静化は好材料と見るが、外部成長戦略は実行されず、静かな決算との印象である。
内部成長戦略では、好調な福岡オフィスマーケットを背景に、オフィスビル稼働率は100%を維持、契約改定等に伴い賃料増額を実現している。
物流施設100%、住居98.7%と、極めて高い稼働率を維持しており、ポートフォリオ全体の期末稼働率も99.4%と、福岡を中心とする九州マーケットのテナント需要の底堅さを示している。
財務面については、引き続き保守的な運営を行うと共に、金利の引き下げに努めている。
B.35期決算内容
35期はコロナの影響が残ったものの、1口当たり分配金はほぼ前期並みの3,536円を維持した。34期の分配金には物件売却益を原資とする分配が130円分含まれており、35期は商業施設の変動賃料の増加と経費削減により、売却益のはく落による減少を補った。
35期は物件の取得、売却ともになく、比較的落ち着いた中、コロナ禍からの回復が進んだとの印象。特に生活密着型の商業施設については、売上がほぼコロナ前水準まで回復した模様。
福岡市のオフィス市場は、コロナ禍の影響も東京に比べ限定的であり、空室率が低く、賃料も上昇傾向と好調を維持している。
C.36、37期業績予想
いずれも予想分配金は3,500円。
36期に入り、「博多筑紫通りセンタービル」を4,320百万円で取得している。好調なオフィスマーケットを背景に、同物件のリーシングは、当初見込みを上回っている模様。
また、新たなレンダーであるみずほ信託銀行から1,000百万円、期間10年の借入を基準金利+30bpsで調達している。
外部要因として、2022年4月競合物件である「ららぽーと福岡」が開業した。
36期分配金は、34期新規取得物件の収益寄与が主な増加要因。経費増加を主因として前期比△1%の3,500円を見込んでいる。アクティブ商業の減収見込みは、主にパークプレイス大分のリニューアルにかかるダウンタイムに伴うものと見られる。
アップサイド要因は、インバウンド旅行者の受け入れ正常化によるアクティブ商業及びホテル物件の賃料増加。特に来福者の多い韓国との往来の正常化への期待は大きい。
37期予想は、36期同様の3,500円を見込んでいる。大口テナントが退去を表明した東比恵ビジネスセンターの賃料収入の減額分を織り込んでいるが、運用会社では将来のアップサイドにつなげられると説明しており、リーシングの進捗が注目される。
また、アクティブ商業物件で74円のDPU増加を見込んでおり、コロナ禍からの更なる回復を期待している模様。
予想分配金3,500円は、実質的にはフロアに近い水準と見られるが、コロナ前の分配金である3,600円台後半水準への回復については、旗艦商業施設売上の回復が必要条件となろう。
投資アイデア
他の投資家が何に注目しているか、アイデアブックでご確認いただけます。
執筆
J-REITウォッチャー
リート資産運用会社で10年超の勤務経験を有する業界通。
自身も知見を活かしてリート投資家として活動中。
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