執筆:西村 麻美

ハピネットの株価情報

 

ハピネット社の一言サマリー

玩具卸売り企業の国内首位。キャッシュリッチで無借金経営。安定的な業績、低PBRで下値は限定的。配当利回りに妙味あり。

 

このレポートは2021年6月28日に弊社斎藤と株式会社ハピネット、取締役執行役員経営企画室長 石丸裕之様とのオープン1on1(ワン・オン・ワン)ミーティングの内容に基づき作成しています。

オープン1on1の動画はこちら


 

 

基本情報

 

企業概要

1969年設立。東京都台東区に本拠地を置くバンダイナムコグループの中核総合商社。玩具卸業国内首位。

玩具・遊具用具の企画・製造・販売、映像・音楽作品・ソフトの企画・製作・販売、ビデオゲームハード・ソフト等の企画・販売、玩具自動販売期の設置・運営、アミューズメント関連商品の販売。

 

株式関連情報

株価1,426円(2021年8月17日)
発行済株式数24,050,000株(自己株式2,130,441株)
上場市場東証一部
時価総額342億円

 

従業員数

968名(連結ベース、2021年3月末時点)

 

財務データ

 2017/32018/32019/32020/32021/3
売上高(百万円)174,059197,607240,398233,347259,313
営業利益(百万円)3,6984,8064,5402,5724,249
当期利益(百万円)2,0404,0312,7351,2242,591
EPS(円)92.32185.31125.3655.93118.24
純資産(百万円)32,31136,69837,98338,17840,973
BPS(円)1,464.821,659.281,712.081,713.781,835.21

 

各事業ごとのビジネス概要

 

セグメント別売上推移

単位:百万円(構成比)2019/32020/32021/3
玩具事業77,004(32.0%)79,060(33.8%)90,327(34.8%)
映像音楽事業81,762(34.0%)71,618(30.7%)67,529(26.0%)
ビデオゲーム事業61,648(25.7%)63,136(27.1%)82,950(32.0%)
アミューズメント事業19,983(8.3%)19,532(8.4%)18,506(7.2%)
合計240,398233,347259,313

 

セグメント別利益率推移

 2019/32020/32021/3
玩具事業2.62%1.35%2.91%
映像音楽事業1.34%0.74%0.77%
ビデオゲーム事業1.68%1.33%1.74%
アミューズメント事業8.63%7.55%5.19%

 

玩具事業(売上高903億円、売上高全体の34.8%)

中間流通で業界最大手(シェア約30%)であり、バンダイ玩具の国内の約9割はハピネット社を通じてEC事業者、家電量販店、小売店などに販売される。言い方を変えると、バンダイ社の玩具はほぼ全てがハピネット社を通じている

バンダイ商品の他にタカラトミー、レゴ、セガトイズ、エポック社など多くの国内外メーカーの商品を取り扱う。また、自社開発商品、流通限定商品も手掛ける。ビジネスモデルとしては卸売り価格でハピネット社がバンダイナム社から仕入れをし、小売店などに販売し、差額がハピネット社の利益になる。

 

映像音楽事業(売上高675億円、売上高全体の26.0%)

国内映像音楽パッケージ市場(DVD、CD合わせて約2,500億円)の中間流通業者として業界最大手でマーケットシェアは約30%。中間流通以外にアニメ、邦画作品を中心に、幹事として製作委員会に参画し、出資を行っている。自社幹事作品は劇場興行、DVD・ブルーレイ(パッケージ販売)、配信、テレビ、Amazonプライム、Netflix等への番組販売を行っている。

 

ビデオゲーム事業(売上高829億円、売上高全体の32.0%)

中間流通として唯一、全ての国内向け家庭用ゲーム機およびそのパッケージソフトも多く取り扱っている。(任天堂Switch、ソニーPS5など)任天堂商材の中間流通におけるマーケットシェアは任天堂販売に次ぎ第2位。2013年にタカラトミーの販売子会社のトイズユニオンを子会社化した事により実質2社で独占している。

 

アミューズメント事業(売上高185億円、売上高全体の7.2%)

カプセル玩具自販機(ガチャガチャ)市場における業界最大手。全国約5,000箇所でカプセル玩具自販機を設置している。(マーケットシェアは60%以上)ガチャガチャの他にデジタルカードゲーム機も手掛けている。人員を配置して中身の補充、売上回収を行っている。

 

少子高齢化と玩具市場の実情

玩具は一般的に3歳~6歳がコアターゲット層であり、仮面ライダー、スーパー戦隊シリーズ、プリキュアなどのキャラクター商品が人気であるが、小学校低学年を終えると玩具を卒業すると言われており、少子高齢化と共に市場は縮小しているという印象がある。

しかし実際には玩具の購買層が20代~40代まで広がっており、コアターゲット層以外の年齢層もターゲット顧客となってきていることに加え、ハイターゲット商材と呼ばれる単価の高い玩具が伸びる事により玩具市場全体は伸びている。購買力のある年齢になり、高単価(2~3万円)のフィギュアやプラモデルなどを購入するいわゆる“オタク”市場が大きく伸びている。

実際、過去10年の間、国内玩具市場(テレビゲームは含まない)は縮小していない。ハピネット社においても玩具の売上は伸びている。ハピネット社では玩具市場は縮小しているとは考えておらず、むしろ対象顧客数、単価の伸びの両面から成長市場であると捉えている。

(出典:日本本玩具協会HP

成長しているハイターゲット商材を取り込む目的でハピネット社は2019年10月に模型玩具(フィギュアなど)の総合卸売を手掛ける株式会社イリサワを買収し子会社化した。買収価格は非公表である。イリサワの2019年1月期の決算内容は売上高54億円、当期利益2,300万円、純資産10億2,500万円であった。フィギュア、プラモデルなどの玩具はホビー市場というセグメント名称で呼ばれている。

国内の市場規模は少し古いデータになるが、日本玩具協会によると2018年度は約1,400億円であった。ハイターゲット商材のような高単価の商品でも基本的に粗利益率はそう変わらないようだ。

 

中間流通業者としてのバリュー

IT化が進む現在、一般的にメーカーがダイレクトに顧客に商品を売り、あるいはメーカーから小売店に直接販売し、中間流通業者の役割の必要がなくなるのではないかという事はよく言われる。

玩具の場合は主に海外で生産され、子どもが玩具で遊ぶためにST基準(玩具安全基準)があり、第三者検査機関によりST基準に合格したものを流通させるという制度がある。このため、発注から商品が出来上がりST基準をクリアして出荷されるまでに最低3カ月は要する。

ハピネット社の中間流通業者としてのバリューは長年のデータの蓄積から需要の予測を客観的に行い、玩具市場という流行の動きが速い業界において、この3か月間の予測を基に在庫リスクを負うという事である。通常小売店からハピネット社に注文が来るのが1ヶ月前であるが、小売店が3ヶ月後の需要予測をする事はかなり困難な事である。

ハピネット社は小売店の代わりに需要予測をし、在庫リスクを取っている。メーカーにとっては、直接小売店に販売する事で生じる売掛リスクなどをハピネット社が負ってくれる。ハピネット社は小売店、メーカー双方の在庫リスクや売掛リスクを代わりに負う事により利益を得るという三方よしのシステムであり、IT化が進んでも本質的に玩具という需要動向の予測しづらい業界においては、その在庫リスクを請け負うニーズは底堅く、結果的にこのシステムに急激な変化があるとはハピネット社では考えていない。

 

今後も成長が見込まれる商材

2021年3月期決算で玩具事業は売上高が前期比14.3%増の903億円、セグメント利益は前期比146.9%増の26億3,000万円であった。好調な理由は「鬼滅の刃」関連商品のヒットやコンビニエンスストア向け商品のBANDAI SPIRITSの「一番くじ」の人気によるものが大きかった。一番くじとはキャラクターグッズが当たるハズレ無しのくじ引き(キャラクターくじ)である。取り扱われる作品は日本のアニメのキャラクターが多いが、ディズニー作品やリラックマなどのファンシーキャラクターなどが使われる事もある。価格は一回1,000円以下であるが、それぞれのキャラクターのファンは大人買いをするので一人当たり平均購入単価はおそらく数千円ではないかと推測される。全国のコンビニエンスストアで発売されるために売上貢献は大きく、今後も成長が見込まれる商材であると言えるだろう。

 

玩具という商材の特殊要因

玩具事業の過去5年の業績を見ていると、売上高は上がっているのに、セグメント利益は2020年3月期まで下がり続けた。通常の卸売り事業は、売上と共に利益も上がり、利益率が大きく変動する事はあまりないという事が多い。ハピネット社では、売上と反比例して利益が下がり、利益率の変動が大きいが、これは在庫処分によるものである。

玩具という商材に特有であるが、中間流通業者としてリスクを取っている以上評価損が発生するのは不可避である。前期2021年3月期に関しては在庫処分金額が前年に比べて大幅に減少した為にセグメント利益は大きく回復した。ビジネス上取っているリスクであるため在庫処分による評価損等が発生するのはやむを得ないが、投資家から見たときに業績予想が行いにくい要因となっているのは否定できない。投資家の期待に応えるにも、在庫処分の変動を上回る、売上・利益率の継続的な成長が求められるであろう。

単位:百万円2017/32018/32019/32020/32021/3
売上高73,72571,40377,00479,06090,327
セグメント利益3,0442,4672,0211,0652,630
利益率4.1%3.5%2.6%1.3%2.9%
処分金額7191,3151,8211,590982
在庫金額2,7622,9352,9102,7663,007
在庫回転率3025262831

(出典:ハピネット社ファクトブック)

 

映像音楽事業

映像音楽事業は大きく2つに分かれる。

1)中間流通業者として映像、音楽のDVD、CD、ブルーレイ等を小売店やEC業者に販売する。 
2)ハピネット社がメーカーとして日本映画やアニメ作品などの製作委員会に参画し、出資を行い、自社幹事作品は劇場興行、DVD等のパッケージ販売、配信、TV等への番組販売を行っている。 

ハピネット社の音楽、映像業界参入は1999年に卸売事業に参入した事がきっかけであり映画に出資をするようになった。2000年代初頭には興行収入13億円のヒット作品であった邦画「フラガール」にも出資をした事があり、この事業に参入してからの年数は約20年である。

過去3期のこの事業セグメントの業績は以下の通りである。

単位:億円(構成比)2019/32020/32021/3
映像卸売事業406(49.8%)391(54.7%)368(54.5%)
映像メーカー事業43(5.3%)43(6.1%)50(7.4%)
映像小計450(55.1%)280(39.2%)257(38.1%)
音楽事業367(44.9%)280(39.2%)257(38.1%)
合計817716675

(出典:ハピネット社決算説明会資料)

 

映像作品に出資した場合の収益の仕組み

ハピネット社が映像作品の製作委員会に幹事や共同幹事として出資した際の収益の仕組みであるが、あくまで一般論として、例えば興行収入10億円の作品があったとすると映像を上映する劇場(映画館)の取り分を差し引き、残りが製作委員会の取り分で、出資比率に応じて収益として計上されると推定される。

 

メーカー事業の拡大

ハピネット社は映像音楽事業でメーカー事業に参入した理由であるが、製作委員会に幹事、あるいは共同幹事として出資する際に権利(ライツ)を獲得するが、このライツ獲得によりDVD化、TV番組や動画配信サービスにコンテンツとして販売等の二次利用からの収益が大きいためにメーカー事業に参入した。映像音楽事業でハピネット社が手掛けた作品は故樹木希林氏出演の「日日是好日」(ハピネット社共同主幹事)、「キセキ―あの日のソビト―」(幹事作品)、「窮鼠はチーズの夢を見る」(製作・配給作品)など。

 

映像ソフト市場、音楽市場の推移

一般社団法人日本映像ソフト協会が2021年5月に発表した調査によると、2020年の映像ソフト市場は前年比121.9%の6,874億円だった。コロナの巣籠需要で市場全体が拡大した。

(出典:日本映像ソフト協会「映像ソフト市場規模及びユーザー動向調査2020」より)

 

レンタルのマーケットを有料動画配信が奪い大きく伸びている。セルも縮小しているが急激に縮小しているというよりは徐々に縮小している状況である。市場全体は基本的に拡大しており、ハピネット社が映像ソフトの中間流通のみならず、メーカー事業に参入してライツを獲得する事により成長する有料動画配信にコンテンツを販売する事が可能になった訳でこの経営判断は正しかったと言えるだろう。

音楽ソフトの市場に関しては、一般社団法人日本レコード協会の調べによると2012年は3,108億円だったが2020年は1,944億円まで縮小した。これは主にストリーミング配信やダウンロードなどのデジタル音楽配信が急成長しているためであるが、音楽ソフト、デジタル配信(ダウンロード、ストリーミング)合わせた音楽市場は2012年に3,651億円、2020年は2,726億円だった。音楽ソフト市場は縮小してはいるものの、全くゼロになる市場ではないとハピネット社は考えており、残存者利益を市場の寡占化で取っていくというスタンスである。

とはいえ、長期的に見れば音楽ソフト分野で市場が拡大していく絵を描きづらく、投資家の視点でみればこの事業の利益にマルチプルを払いづらいのも事実である。ただ縮小気味とはいえ、だからこそ新規参入もなく寡占化しているともいえるため、この比較的安定したキャッシュフローを使った代替する事業の構築やそのプランを打ち出せれば、投資家の見方も変わると考えられる。

 

映像音楽事業でのM&A

ハピネット社は近年映像音楽事業で2社買収をしている。一社は2018年に映像、音楽ソフトの卸売り業者で最大手の星光堂を30億円で買収した。ハピネット社は星光堂に続く業界2位でこの2社でほぼ映像、音楽ソフトの卸売り事業を独占していた。2社で競合していた時にはシェアを拡大するために価格競争が激しかったが、買収により適正な利益を確保する事が可能になった。これは市場の寡占化の戦略に沿うものであったと言えるであろう。

もう1社は2020年の独立系の映画会社ファントム・フィルムの買収である。(買収金額は非公表。)ファントム・フィルムは洋画や邦画の配給、企画、製作、宣伝などを行う2003年設立の会社である。2020年の買収より前から映像作品に共同幹事として出資をしてきた経緯がある。映像ソフトの川上の部分を確保する事により興行収入のみならずコンテンツの二次利用、また映像ソフトの販売とワンストップで提供が可能になった。

ファントム・フィルムは、買収前は社長が株主だったために資金調達能力が限られていたが、ハピネット社から買収された事により様々な資金調達の選択が可能になり、またハピネット社にとってはヒット映画の企画、買い付け能力が向上し、win-winの買収であったと言えるだろう。なお、ファントム・フィルムの直近の決算の決算は当期純損失の4億4,300万円であったが、これは業績低迷というより、ハピネット社に買収された事により会計基準を揃える為に減損損失を計上した事による。

映像事業については、音楽事業と違い、ハピネット社は明確にコンテンツ側に参入しようとしている。潤沢な資金を使ったM&Aもその理由である。映像・音楽といったデジタルコンテンツの場合、玩具市場と違って在庫リスクという概念自体がストリーミング化により成立しなくなるため、中間流通どころか小売市場自体が縮小することを考えると、コンテンツ提供側にいくという選択は理解できるところである。

一方で、コンテンツ制作は事業としては数字が読みづらく、投資家にとって業績予想をする上で頭を悩ませることになるであろう。株式市場からしっかり評価されるためにも例えば、コンテンツ制作事業は赤字を出さない体質で維持しつつ、ヒット作に恵まれた時には、その大きな利益貢献からしっかり株主還元に回すことをコミットすることで、コンテンツという読みにくくボラティリティのある事業も評価されるようになるのではないかと考えられる。

 

ゲームソフトのダウンロード増加は脅威ではない

ビデオゲーム事業は終わった期はNintendo Switchおよびソフトの「あつまれどうぶつの森」の人気が大きく、売上高は前期比31%増の829億円、セグメント利益は同72%の14億4,700万円だった。ビデオゲーム事業はリードタイムが比較的短いため在庫リスクが小さく、在庫処分の金額は玩具に比べて大幅に低い

中長期的な問題としてゲームソフトのダウンロード増加によるパッケージ売上の減少が指摘されるが、ダウンロード比率に関しては、日本は海外に比べて大分低く、特典目当てにパッケージを買う人達がかなりいるためにハピネット社では心配をしていない。特典による需要喚起のために小売店向けに特典の企画をするなどの施策を講じている。

 

粗利益率が一番高いアミューズメント事業

アミューズメント事業に関してはカプセル玩具自動販売機やキッズカードゲーム機のオペレーションを行っている。利益率は全セグメントで一番高い。自社の社員が自販機の補充、お金の回収を行っている。マーケットシェアは60%以上とトップシェアを保っている。

終わった期(2021年3月期)に関しては、コロナでガチャガチャを置いているショッピングセンターが休業、あるいはインバウンド客減のためにセグメント利益は大きく減少したが黒字を維持した。固定費比率が大きく、変動比率が小さい、つまり限界利益が大きいために

経済正常化で売上が戻ってくれば利益も大きく戻る事が期待される。

 

資本政策について

ハピネット社は卸売事業がメインで物流施設の新設などがない限り設備投資需要がほぼないために借入はゼロである。その結果として資本が積み上がりROEは低下している状況である。2021年3月期末時点でのROEは6.7%だった。過去5期の有利子負債、ROE、投資有価証券の状況は以下の通りである。

単位:百万円2017/32018/32019/32020/32021/3
現預金等11,60511,45817,44714,41021,772
投資有価証券7,1058,3237,3587,0008,681
有利子負債00000
ROE6.5%11.9%7.4%3.3%6.7%

現預金は2021年3月期末時点で217億円、時価総額の約62%とかなり手元流動性が高い状況である。手元流動性を高くしているのは二つの理由がある。

1)将来の成長のためのM&Aの際に借入せずに備えるため。 
2)中間流通業者として毎月かなりの金額を動かしているが、資金繰りのショートを避けるため。 

2014年に経産省がまとめた伊藤リポートでは日本企業はROE8%を目標とすべきという事はハピネット社では認識しているが、自社株買いによりROEを上げるよりも中長期的な成長を実現するM&Aの為にキャッシュを使いたいという意図が感じられる。

自社株買いに関しては2017年3月期に10億9,000万円相当の自己株式の取得を行っている。それ以降自社株買いは行っていない。積み上がった資本の使途についてはM&Aを含む成長投資を優先し、第五、第六のコア事業を作り上げたいとの方針である。また、配当性向は40%を維持との事である。

 

マーケットアナリストの投資評価

 

アクティブなM&Aと投資回収の計測の曖昧さ

ハピネット社はアクティブにM&Aを行い各事業のマーケットシェアを拡大して来た。市場全体は大きく伸びる事がない中、市場寡占化により残存者メリットを享受しているという状況である。M&Aに関しては自社でロング・リスト(買収対象候補リスト)を持っており、その他に投資銀行からの案件の持ち込みもあるようである。

以下に過去の買収成立案件をリストにしてあげる。

1999年ビームエンタテインメント(DVD卸会社、後の株式会社ハピネット・ピクチャーズ)の株式を取得
2001年株式会社トヨクニ(玩具卸会社)の株式を取得
2002年松井栄玩具株式会社より営業を譲受
2006年株式会社モリンガ(玩具、ゲーム卸会社)の株式を取得
2007年株式会社サンリンク、株式会社アップル(両社ともカプセル卸会社)の株式を取得
2009年株式会社ウイント(CD、DVD卸会社)の株式を取得
2013年株式会社トイズユニオン(ゲーム卸会社)の株式を取得
2015年株式会社ブロッコリー(ゲームソフト制作会社)の第三者割当増資により取得
2018年株式会社星光堂の音楽映像パッケージ部門の権利、営業譲受
2019年株式会社イリサワ(フィギュア、プラモデルの卸、小売り会社)の卸売り部門の営業譲受
2020年ファントム・フィルム(映画製作、配給会社)の株式を取得

主に同業他社をこれだけ買収して来てマーケット・シェアを拡大してきた訳だが、買収金額が非公表であるケースが多い為にROI(投資収益率)などの指標で計測する事が出来ない。

しかし、業績的に伸びているとは言えないために逆の言い方をするとこれらの買収をしていなければ業績はもっと悪化していただろうと推測できる。

 

投資家、資本市場へのメッセージの必要性

キャッシュリッチな一部上場企業として機関投資家からも認知されていると思うが、縮小傾向にある国内卸売り事業だけでなく、成長事業にある程度の借入をして投資をする事によりROEを上げるか成長事業に投資が出来ないのであれば、自社株買いを毎年するべきではないかとの意見が寄せられているであろう事は想像に難くない。

ここ数年は恒常的にPBR1倍割れの状況が続いており、前期は当期純利益がその前の期に比べて倍増した程の業績回復であったが、株価の反応は鈍かった。裏を返せば、利益の成長、あるいはROEの向上に向けた計画が対外的に強いメッセージで発信できていないことが、投資家から高い評価を受けていない要因であると考えられ、結果的にPBRやPERといった指標が低いまま放置されている可能性がある。一方で現金の保有残高に対しての時価総額の大きさに目をつけたアクティビスト・ファンドのターゲットになる可能性もなくはなく、ハピネット社から見ても歓迎すべき状況ではないだろう。

多額の借入をしての新規事業投資や大規模な自社株買いをする必要はないかもしれないが、利益の成長に向けた強いメッセージと実績の積み上げ、同時にROEを上げる為に例えば配当性向を上げる、定常的な自社株買いの方針やコミットなど、利益成長と株主還元のより明確なアナウンスは株価にとって大きなポジティブ・インパクトになる事は間違いない。

 

主な経営指標

 

過去3年のキャッシュフロー状況

(単位:百万円)2019/32020/32021/3
営業キャッシュフロー2,6701,1451,790
投資キャッシュフロー▲3,257▲1,550▲1,546
財務キャッシュフロー▲928▲1,1772,157
現金及び現金同等物期末残高10,8839,17211,682

 

主な経営指標

(単位:百万円)2019/32020/32021/3
自己資本比率69.0%67.1%62.8%
配当性向41.3%104.5%42.2%
営業利益率6.5%3.2%5.1%
総資産回転率0.8回0.8回0.8回
EBITDA2,636百万円1,990百万円2,418百万円
ROA3.7 %1.5%3.0%
ROE5.4%2.2%4.7%
ROIC4.4%2.2%3.6%

 

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プロフィール

株式会社クリプタクト
マーケットアナリスト 西村 麻美

新卒でメリルリンチ証券東京支店入社後コーネル大学経営大学院にMBA留学。 
卒業後東京に戻りHSBCアセットマネージメントにて日本株アナリスト、年金運用、アライアンスバーンスタイン東京支店にてプロダクト・マネージャーとして勤務後フリーランスのコンサルタントを経て現職。

 

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