1. はじめに
「新NISA」が想定を上回る関心を集めているようです。大手ネット証券では、2024年最初の2週間の新規口座開設数が前年同時期の3倍に達したとか。
そんな「新NISA」で人気と言えば、S&P500とMSCIオール・カントリー・インデックス(通称オルカン)に連動する商品です。日本経済新聞によれば、2024年1月の「新NISAつみたて投資枠」購入額の約80%を占める上位10投信のうち実に9本が、世界株や米国株で運用する商品だったそうです。
日本経済の国際的地位の低下や長引く低金利政策などを背景に、将来に不安を感じる多くの人が、海外投資に踏み出しています。日本円で生計を立てる私たちにとって、為替レートの変動、特に円安による資産の目減りは無視できないリスクです。そのため、為替ヘッジを行わない投資戦略が注目されています。
この記事では、「新NISA成長投資枠」を活用した為替ヘッジなしの「海外債券ETF」(以下「外債ETF」と言います)に焦点を当てます。外債ETFの基本、その魅力や投資に際しての注意点について分かりやすく解説します。
既にオルカンやS&P500に投資していて、投資対象を拡げたい方や、海外株式よりも値動きが穏やかな投資商品をお探しの方に役立つ情報を提供します。
前回(種類株式)、前々回(住宅系リート)紹介した円建て商品と併せて、「新NISA成長投資枠」への組み込みをご検討ください。
2. 外債ETFの魅力
外債ETFとはその名の通り、海外で発行される債券に投資するETFです。ETFとは上場投資信託(Exchangeable Trading Fundsの略)を意味し、数千円程度の少額から、低コストで投資できる点が大きな魅力です。
債券は一般に、株式に比べて値動きが穏やかです。その一方、株式のような大きな値上がり益(キャピタルゲイン)を期待しづらい面があります。投資先進国の米国では、この性格が異なる両者を組み合わせる投資戦略が普及しており、長らく株式60%、債券40%の組み合わせが理想的とされて来ました。
残念ながら、「つみたて投資枠」の対象商品に、外債に特化した商品は見つかりませんでした。ただし、「成長投資枠」を使えば、理想のポートフォリオを作ることが、簡単にできます。
外債ETF投資には、東京証券取引所(以下「東証」といいます)に上場するETF、または海外市場に上場するETFに投資する方法がありますが、ここでは東証上場の外債ETFへの投資を紹介します。
外債ETF投資には以下のような利点があると考えます。
A. 「新NISA成長投資枠」の利用可能
外債ETFの多くは「新NISA成長投資枠」の対象商品であり、配当、値上がり益共に非課税での投資が可能です。
毎月分配を行うETFなど、「成長投資枠」の対象外の商品も一部存在しますので、投資にあたってはご注意ください。
また、ETFは少額投資が可能なので、「成長投資枠」内で複数のETFへの分散投資が可能です。
B. 東証で手軽に取引可能
日本株と同様、東証の取引時間中、いつでも円での売買が可能です。
外債と聞くと、証券会社を通した個別債券の購入や、海外ETFの購入をイメージされるかもしれません。実は、東証にも多くの外債ETFが上場しており、日本株と同様に取引されています。
米国上場の海外ETFをリアルタイムで取引するためには、日本の深夜時間に起きておく必要がありますが、東証に上場するETFの場合、日本の通常時間帯での取引が可能です。
また、東証に上場する外債ETFの多くは、海外での配当課税を調整する「二重課税調整制度」の対象になっている点も魅力の1つです。
さらに、外貨を用意することなく円で取引できるので、投資が簡単です。
ただし、円で取引すると言っても価格が円建て表示されているだけで、外貨建債券に為替ヘッジなしで投資するという根本部分に変わりはありません。したがって、投資後の円安はETFの価格上昇要因、円高は価格低下要因となる点にご留意ください。
C. 利回り水準の高さ
外債ETFへの投資は、日本の債券や日本株を上回る配当利回りを期待できます。
日本では低金利が長く続いており、足もとの国債の利率は3年物で0.05%/年、10年物で0.7%/年程度と、投資妙味を感じづらい水準です。一方、海外においてはインフレ対策として、中央銀行が積極的に金利を引き上げたことから、日本よりもはるかに高い金利水準になっています。
例えば、アメリカ国債の利回りは、3年物で4.3%/年、10年物で4.2%/年程度です。オーストラリア国債では、3年物で3.7%/年、10年物で4.1%/年程度と、為替リスクを考慮しても魅力的な水準と言えそうです(2024年2月14日時点)。
また、国債ではなく、社債や優先株式などの場合、利回りはさらに高くなります。
こうした高利回りの債券を対象とする外債ETF投資では、魅力的な配当を得ることができます。
D. 金融政策の方向性
今後金融引き締め局面を迎える日本とは逆に、海外では金融緩和が予想される国が多く、債券投資に適していると考えられます。
債券は通常固定金利のため、債券価格は金利と逆方向に動きます。つまり、金利の上昇局面では債券価格が低下する一方、金利の低下局面では価格が上昇するのが一般的です。
金利を決める大きな要因は、中央銀行の金融政策です。したがって今後金融緩和が予想される国の債券を対象とするETFへの投資は合理的と考えられます。
ただし、金利水準は為替相場を変動させる大きな要因でもあるので、日本の金利上昇に対して、金利が低下する国の通貨には、円高方向の圧力がかかりやすい点は、リスク要因として考慮すべきです。
E. 多様な投資機会
東証には様々な国の国債や社債を投資対象とするETFが上場しており、選択肢が多様です。
国債だけを見ても、アメリカ、フランス、オーストラリアなどの経済先進国に加え、アジアや他の新興国への投資も可能です。また、特定の国だけではなく、複数国の国債を組み込んだETFもあります。
また、企業が発行する社債を投資対象とするETFや、優先株式を投資対象とするETFもあります。債券の利率は、発行体(債券を発行する主体)の信用力を反映するため、先進国よりも新興国、国債よりも社債の方が利率は高くなるのが一般的です。
発行体の信用力を測るには、信用格付を見るのが手っ取り早い方法です。格付機関によって使用する符号が 異なりますが、S&Pを例にとれば、最高ランクのAAAから、AA、A、BBBと続き、通常BBB-以上の格付を持つ債券を、信用リスクが小さい投資適格と見なします。
S&P社の国債格付を見ると、豪州やカナダ国債は最高ランクのAAA、米国はAA+の高格付けです。一方、日本国債の信用格付けは、中国国債と同じA+水準なので、海外主要国の国債は日本の国債よりもデフォルトリスクが小さいと考えられます。
外債ETFが投資対象とする債券の信用格付は簡単に調べられるので、多様な商品の中から、自分のリスク許容度に合った商品を選択することができます。
F. 分散効果
証券会社で購入できる個別の外債に比べ、外債ETFは少額での投資が可能です。
ETFの売買単位は1口や10口に設定されているケースが多く、10,000円以下で投資可能な商品もあります。
ETF自体が複数の債券に投資する分散が効いた商品であることに加え、満期までの期間(デュレーション)や発行体の属性が事なる複数のETFに投資すれば、分散効果はさらに高まります。
3. ETFの選び方
各国の経済状況や中央銀行の金融政策の違いに加え、投資家の資産背景や投資経験なども異なることから、万人にとってベストという選択肢は存在しません。
共通点を挙げるとすれば、日本で生活する人にとって、円の価値の低下を意味する円安はリスク要因であるということです。多くの方がこのように考えるからこそ、「新NISA」を通じて海外株式に投資する人が増えているのでしょう。
為替ヘッジなし外債ETFへの投資は、円安リスクヘッジ手段でもあるので、複数の国の債券に投資をすれば、複数の通貨に対する円安リスクを下げる効果を得られます。
ETFの分散効果や、債券の穏やかな値動きを考えれば、シンプルに高い利回りを得られるETFを選ぶという方法も考えられるでしょう。
選択肢が多いアメリカの債券を中心に、別の国の外債ETFを組み合わせるという方法はどうでしょう?例えば、米国優先証券ETFと豪州国債ETFの組み合わせや、米国の超短期国債ETFと新興国債券ETFの組み合わせなどが考えられます。
優先証券は通常の社債に比べて返済順位が劣り、信用リスクが高いため、利率の水準が高く設定されており、ETFでも5%を超える配当利回り(実績値)を期待できます。
日本と異なり天然資源が豊富なオーストラリア国債への投資は、米ドルとは異なる意味で円安リスク対策となるかもしれません。
米国債ETFで足もと最も高い配当利回りを期待できるのは、1ヶ月から3ヶ月の短期国債に投資する超短期ETFです。ただし、米国中央銀行が利下げを開始すれば、配当利回りは急低下すると予想されるため、10年や20年という長期債ETFを選ぶという考え方もあるでしょう。
銘柄選びと併せて難しいのは、売買のタイミングです。債券利回りが高く、円高の時に買う、と言いたいところですが、外債の利回り上昇は基本的に円安要因なので、両立がなかなか困難です。
外債ETFの利回りの高さが、為替変動に対する一定のクッションになることや、日本で生活する上でのリスクヘッジであるという点を考えれば、思いついたタイミングで、複数回に分けて投資するのがいいかもしれません。
価格は2024/2/14終値、利回りは各ETFの運用会社のHP上の係数(2024/2/14付)を転記
*参考情報として、同種の毎月分配型ETF(証券コード: 2866)の利回りを記載
**参考情報として、米国に上場する同種のETFの利回りを記載
4. まとめ
「新NISA」がスタートした2024年、株式相場が好調に推移しており、様々な国で株式インデックスが史上最高値を更新しています。「新NISA」で人気のオルカン、S&P500も例外ではないので、絶好の投資デビューとなった方も多いことでしょう。
オルカン、S&P500、はたまた日本の高配当株式などを通じて、順調に「新NISA」投資を始められた皆さん、次の一手として、ポートフォリオの分散を可能とする外債ETFへの投資を検討されてはいかがでしょうか?
気になる投資商品を見つけたら、完全無料の投資シミュレーションツール「アイデアブック」で試してみませんか?大谷選手が登板を前にブルペンで行う肩慣らし、みたいな感じです。