弊社で仮想通貨を保有する日本企業についてのレポートを初めて書いたのは2021年の6月で(隠れ暗号資産銘柄に注意!)、翌2022年8月に2度目のレポートを書いた。(暗号資産冬の時代突入で保有上場企業のリスク上昇か!?)今回1年10か月ぶりに仮想通貨市場と上場企業の仮想通貨保有状況についてアップデートをしてみる。ここ数年の仮想通貨市場の一番のトピックは2024年1月にビットコイン(BTC)の現物ETF(上場投資信託)がSEC(米国証券取引委員会)に承認された事だろう。

このレポートでは仮想通貨市場の数年間の状況及び仮想通貨を保有する日本企業について取り上げる事にする。

目次

  1. 2021年BTC先物ETF上場から昨今までの変遷
  2. 2020年以降の仮想通貨の取引高推移
  3. 海外および日本でのIEOの現状
  4. 仮想通貨は投資対象としてして状況
  5. 日本企業の仮想通貨保有状況

2021年BTC先物ETF上場から昨今までの変遷

まずは、これまでの主要な出来事について振り返る。

2021年10月にBTC先物ETFが上場

初めて暗号資産と日本企業に関するレポートを書いた2021年6月2日のBTCの価格は413万6,000円であった。2021年後半のBTCに関するニュースと価格であるが、中米のエルサルバドルが2021年9月にBTCを法定通貨として定める法律が施行された。5月以降下落相場だったBTCの価格がこのニュースを受けて500万円をつけ再び強気相場入りした。2021年10月19日にはアメリカで初のBTC先物ETFがSEC(米国証券取引委員会)に承認されNYSEに上場し、初日の取引高はETFとして歴代2番目となる10億ドル規模にまで達し、BTCの価格は730万円となった。その後BTCの価格は11月8日に当時の市場最高値である776万円をつけた。

 

(チャート出所:クリプタクト・マーケット情報より) 

暗号資産市場は低迷した2022年

2021年末にFRBはテーパリング(量的緩和策による資産買い入れ額を徐々に減らしていく事)開始を発表し、以降暗号資産市場は低迷した。2022年2月末にロシアによるウクライナ侵攻があり、5月に入り米国株は下落し、リスクオフの動きがは無担保型ステーブルコインのテラUSD(TerraUSD)の暴落につながった。テラUSDの暴落により暗号資産市場全体が下落し、BTCの価格は500万円台から300万円後半に下落した。7月にテスラ社が保有するBTCの75%を売却したとの発表、FRBの利上げ継続、11月の大手暗号資産交換所のFTXグループの破産申請と悪材料が続き、BTCの価格は220万円まで下落した。

2023年は現物BTCのETF期待から市場は年末にかけ上昇

2023年の年初は1月半ば頃にはBTCの価格は260万円を回復した。3月、4月は米国の金融機関の破綻が続き金融不安が高まった。しかしBTCの価格は4月半ばには400万円を回復し好調に推移した。5月に入るとBTCネットワークの取引件数の急増等により世界最大の暗号資産取引所であるバイナンスはBTCの出金を一時停止し、BTCの価格は300万円まで下落した。6月に入り世界最大の資産運用会社であるブラックロックがBTC現物ETFの申請をした後、機関投資家限定の暗号資産取引所のEDXマーケッツが始動しBTCの価格は450万円まで上昇した。8月に暗号資産に特化した投資信託会社のグレースケールがBTCファンドをBTC現物のETFに切り替えを申請をしたが、SECは否認し、この判断を高裁が取り消したが、10月にSECは控訴を断念した。これを市場はETF承認への前向きな動きと受け止められ、BTCは年末に610万円まで上昇した。

2024年年初にBTC現物ETF承認からBTC上昇相場へ

2024年1月10日にSECがBTC現物ETFを承認と発表した。ブラックロック、フィデリティ、アーク・インベストメンツ、インベスコ等が申請していた10本とグレースケールのETF転換が承認された。SEC委員長のゲイリー・ゲンスラー氏はSECがリリースしたBTC現物ETF承認の声明文の中でグレースケールのBTC現物ETFへの切り替え却下を裁判所が不十分な理由であると破棄し、SECに再審査を命じた事がきっかけでBTC現物ETFを承認する事がベストな判断であるとの結論に至ったと明言している。(出所:US Securities and Exchange Commission “Statement on the Approval of Spot Bitcoin Exchange-Traded Products”)BTCの現物ETFの承認以後BTCの価格は1月12日に670万円まで上げ、短期的な調整売りの後に本格的な上昇相場へと突入し、BTCの価格は3月に入り1,000万円の大台を突破した。

2024年5月下旬にSECはETHの現物ETFを承認

3月にBTCの価格は1,000万円台の大台に乗せ3月31日には1,064万円までつけたものの、4月半ばにイランによるイスラエルの攻撃、FRBの利下げの後ろ倒し観測等でリスクオフの流れになりBTCの現物ETFへの資金流入は鈍化し、純流出の日が多かった。BTCの価格は4月19日には990万円まで下落した。4月20日にBTCは半減期を迎え、4月30日には香港証券取引所にBTCとイーサリアム(ETH)の現物ETFが上場した。現在香港証券取引所ではBTCとETHの現物ETF6本が取引されており、5億米ドル(約770億円)の資金流入があったと言われている。5月下旬に入りBTCの価格は1,100万円台まで付け、その後1,000万円台を維持している。5月23日に米SECはETHの現物ETFの上場を承認した。8本のETFが承認され、年内に取引開始の予定である。

2020年以降の仮想通貨の取引高推移

2020年以降の仮想通貨の取引高の推移を下記にまとめた。

2020年21.08兆ドル
2021年54兆ドル
2022年49.1兆ドル
2023年36.6兆ドル
2024年1Qに前年同期比81%増の5.3兆ドル

(出所:TokenInsight 2020 Cryptocurrency Spot Trading Annual Report、TokenInsight 2021 Cryptocurrency Spot Trading Annual Report、TokenInsight Crypto Exchanges 2022 Annual Report、TokenInsight Crypto Exchanges 2023 Annual Report、CoinGecko 2024 Q1 Crypto Industry Report)

2020年以降の仮想通貨の取引高の推移を見てみると2021年が54兆ドルと突出して大きかった。2024年は1Qの取引高が前年同期比81%増の5.3兆ドルとなった。2024年通年ではBTC現物ETFローンチ以来主要仮想通貨の上昇やDeFi(分散型金融)、NFT(非代替性トークン)市場の拡大もあり、40兆ドル以上に成長するのではと見られている。

海外及び日本でのIEOの状況

仮想通貨の市場拡大において、IEO(Initial Exchange Offering)という仮想通貨の発行体が仮想通貨取引所を介して行う資金調達も仮想通貨市場の発展の重要な役割を担っていると考えられる。IEOが始まる前はICO(Initial Coin Offering)という資金調達方法が用いられていた。ICOはトークン発行体が取引所等を通さずに直接販売する方法である。ICOの仕組みでは詐欺が発生したり、資金調達後に消えてしまった団体、企業もあった為に認可業者や当局が審査するIEOという資金調達方法が誕生した。

IEOは2019年に海外で採用されるようになった。BitTorrentのIEOはBinance LaunchPadで2019年1月に行われ15分で700万ドルを調達した。翌2020年はFetch.AIのIEOがBinanceで行われ600万ドル調達した。2021年にはRowan EnergyがToken ExchangeでIEOで250万ドルをキャップとして資金調達を行い、同年HarmonyがBinance LaunchpadでIEOを行い500万ドルの資金調達を行った。2023年にはOcean ProtocolがBittrex International でIEOを行い600万ドルの資金調達を行った。

日本におけるIEOの主なものは2021年にCoincheckが実施した「パレットトークン(PLT)」で、約10億円の資金調達に成功した。このIEOは、日本国内でのIEOの先駆けとなり大きな注目を集めた。2022年には、GMOコインが「FCRトークン」を発行し、同じく約10億円を調達した。日本で2例目のIEOとなりIEO市場の拡大を示した。2023年はCoincheckが「フィナンシェトークン(FNCT)」を発行し、約10億円を調達した。また、DMM Bitcoinとcoinbookは「NIDTトークン」を発行し、同じく10億円以上の資金を集めた。

仮想通貨は投資対象としてして拡大

以上BTCを中心とした仮想通貨市場の変遷についてまとめてみたが、弊社では仮想通貨市場は投資対象として拡大していくと考えている。その一番大きなきっかけとなったのは米SECがBTC現物ETFを承認した事であろう。BTCの現物ETFはSECの規制と監督の下で運営される為に投資家は安心して投資できるようになり、これから機関投資家の投資対象としていく動きが出てくると考えている。

一部の投資家は法定通貨のインフレリスクに対するヘッジとしてBTC等の仮想通貨を利用している。特に新興市場や経済不安のある地域では仮想通貨が価値保存手段として利用されるケースが増えている。

また、仮想通貨ではDeFi、リキッドステーキング(ステーキング可能な仮想通貨をDeFiプラットフォームに預ける代わりに預け入れた仮想通貨の債権を証明するトークンを受け取る事ができるサービス)、NFT等新しい技術やプロトコルの開発が続いており、これが投資機会を提供している。

これらの状況を総合的に考えると仮想通貨は投資対象として拡大していくものとみられる。なお、今のところ日本国内の証券会社でのBTC現物ETFの取り扱いはない。

日本企業の仮想通貨保有状況

ここからは上場企業の仮想通貨保有状況のアップデートをする。直近の決算短信をもとに仮想通貨を保有している企業をまとめた。弊社が独自に集計し、仮想通貨を保有していると思われる企業は32社であった。1年10か月ぶりに集計をしてみて前2回と違うのはIEOを実施した、あるいはこれから実施する予定の企業が増えた事である。

2021年6月、2022年8月にレポートを書いた時点では仮想通貨を保有している企業は決済手段として導入した飲食店やEC業が導入したというケースや業績不振企業がブロックチェーン事業に活路を見出し事業開発目的で仮想通貨を保有していた企業が多かった印象を受けた。仮想通貨保有企業は期末に時価評価益があれば課税をされるために業績不振企業は資本に大きさに比べ課税リスクが大きかったと言える。(2021年6月のレポートはこちら、2022年8月のレポートはこちら

以下にIEOを実施した企業、あるいはこれから実施すると発表した企業について紹介する。株価は全企業2024年6月5日の終値である。

 

①コロプラ(3668)

株価時価総額予想PERPBR
580円745億円  N/A*1.01倍

                                         *通期業績予想を発表していないためにN/A

企業概要:オンライン・ゲームの開発企業。VR事業、投資事業も行う。

コロプラのグループ会社Brilliantcryptoが「ブリリアントクリプトトークン(BRIL)」のIEO(@Coincheck IEO)を2024年5月27日に発表し、同日から購入申し込みを開始したが、申し込み総額が受付開始から13分で調達目標の15億1,200万円に到達したとコインチェックは発表した。

BRILはBrilliantcrypto内でゲームを始めるため、プレイをより効率的にするために使用されるとの事である。コロプラのIEOのリリースはこちら

②グローバルウェイ(3936)

株価時価総額予想PERPBR
137円50億円87.26倍4.79倍

企業概要:クラウド開発、運用保守。就活・転職口コミサイト「キャリコネ」運営。

グローバルウェイのスイスの子会社Time Ticket GmbHが発行した「タイムコイン(TMON)」は2020年11月11日に仮想通貨交換所BitForexに上場した。Time Ticketは個人のスキルを売買できるサイトを運営している。タイムコインはTime TicketやeSportsStarsで使える仮想通貨として発行された。2020年11月12日16時(日本時間)のトレーディング開始後、1タイムコインは約0.00065BTCの初値がつけられ、この時点での時価総額は約1,079億円となった。グローバルウェイのプレスリリースはこちら。

タイムコインの価格は2021年10月には75万円をつけ、その後12月8日午前には13万円付近で推移していたが、同日午後1時には100円未満に暴落した。ロックアップ解除が暴落の要因であったとみられる。

③第一商品(8746)

株価時価総額予想PERPBR
148円45億円   N/A0.8倍

企業概要:金地金売買を手掛ける。不正会計により金先物取引業務を2020年に譲渡。2024年7月より社名をUNBANKEDへと変更予定。

第一商品は2023年1月から海外子会社を通じ金の価格と連動する仮想通貨「Kinka」の販売を開始した。Kinkaは2024年2月19日より仮想通貨交換所CoinW Exchangeに上場した。ティッカーはXNK。なお、IEOでの調達金額は不明。第一商品のプレスリリースはこちら

④ネクスグループ(6634)

株価時価総額予想PERPBR
125円34億円22.2倍1.12倍

企業概要:旧称本多エレクトロン。IoT、ブロックチェーン事業。衣料、雑貨、旅行事業からは撤退。

ネクスグループは2022年9月にネクスコイン(NCXC)の発行を2022年9月に発表した。ネクスコインはネクスグループの運営するGameFiプラットフォームで利用が可能である。IEOでの調達金額は不明。ネクスグループのプレスリリースはこちら

なお、ブロックチェーン計画から撤退してしまったためにIEO計画を中止してしまったが、モバイルファクトリー(3912)は仮想通貨QYSコインのIEOを2024年上期に計画していた。

 

仮想通貨保有上場企業一覧

単位:千円

企業名企業概要仮想通貨売却損益仮想通貨評価損益純資産営業損益
ネクソン

オンラインゲーム開発。決算月は12月のため数字は1Qを参照。

2021年4月に111億円相当のビットコインを一枚当たり6,446,183円で購入したことを発表。

N/AN/A964,754,00029,146,000
スクウェア・エニックス・ホールディングス大手ゲーム会社「ドラクエ」「FF」主軸341,000N/A317,129,00032,558,000
グリースマホゲーム開発、配信。N/A270,00094,090,0004,555,000
コロプラオンラインゲームの開発・運営。VR事業、投資事業N/AN/A73,674,000273,000
エイベックス音楽、映像エンタメグループ
前期暗号資産評価損70百万円。今期は評価損益、売却損益ともになし
N/AN/A56,099,0001,265,000
ユナイテッド教育、人材マッチング、投資事業等N/A13,42523,540,0004,859,000
リミックスポイント

エネルギー事業、蓄電池事業、コンサルティング

連結子会社であったビットポイントジャパンをSBIHDに譲渡し、2023年5月で金融関連事業を廃止

BSの暗号資産:68千円

N/A▲ 27,00017,969,0001,743,000
SBIグローバルアセットマネジメントSBIホールディングス子会社
暗号資産売却益のみで、評価損益がないため、全て売却か。
13,717,000N/A16,110,0002,111,000
gumiモバイルオンラインゲームの開発、運営及びXR領域の投資、開発
BSの暗号資産:2,635,062千円
66,039595,04812,242,000▲ 5,040,000
ホットリンクSNSマーケティング7,400N/A6,412,00025,000
第一商品金先物取引事業は売却、金地金販売が事業の中心
2024年2月から暗号資産Kinkaを海外暗号資産プラットフォームで販売
N/AN/A5,569,000▲ 149,000
ネクストーン音楽コンテンツの著作権管理業務N/A6335,155,000657,000
アルファグループ携帯販売代理店、コクヨ販売代理店
暗号資産売却損で、評価損益がないため、全て売却か。
▲ 6,418N/A4,892,000710,000
アカツキスマホゲーム開発、配信。5,000▲ 111,0004,021,0002,676,000
Eストアー企業の自社EC総合支援サービスを展開。
BSの暗号資産:207,385千円でBTC、ETH、BCHを保有
N/A131,8493,665,0001,086,000
企業名企業概要仮想通貨売却損益仮想通貨評価損益純資産営業損益
Shinwa Wise Holdings美術品公開オークションの企画・運営で最大手N/A13,5403,237,000▲ 136,000
ギグワークスIT営業支援、コールセンター運営
 
N/A▲ 3,6183,175,000101,000
ネクスグループIoT、暗号資産関連注力。衣料・雑貨、ネット旅行は撤退
日本発、上場企業発行のネクスコインの価値向上を推進
BSの暗号資産:100,333千円
N/AN/A3,042,000▲ 55,000
ディー・エル・イー朝日放送子会社、IPビジネス、KPOP事業N/A5492,942,000▲ 589,000
モバイルファクトリースマホゲーム開発N/A8602,804,000172,000
Link-U グループコンテンツ配信、漫画アプリ開発運営N/A▲ 3,8902,501,000241,000
ガーラオンラインゲーム開発
BSの暗号資産:55,821千円
N/A21,6902,054,000▲ 130,000
きちりホールディングス高級居酒屋「KICHIRI」等を直営展開。▲ 153,987▲ 133,1111,662,000662,000
グローバルウェイクラウド開発、運用保守。就活・転職口コミサイト「キャリコネ」N/A1,6851,481,000▲ 380,000
Institution for a Global Society企業、学校などに向け教育支援、人材開発ツールをクラウド提供。
暗号資産関連事業を行うことを目的に、2023年4月にONGAESHI Corporation(100%子会社)を設立。さらに、2024年3月期4Q期間中に、「ONGAESHIプロジェクト」の海外展開を見据えて設立されたシンガポール法人「BOUNDLESSEDU PTE.LTD.」への出資を行った上で、同社への本プロジェクトのプラットフォームシステム売却
N/A471,014,000▲ 21,000
アクセルマークインターネット広告N/A15,976811,000▲ 103,000
コムシード携帯コンテンツ、モバイルゲーム開発
BSの暗号資産:49,252千円
2,501▲ 11,920794,00035,000
フィスコ

金融経済情報サービスが主力。
フィスココインを発行。

BSの暗号資産:270,579千円


33
N/A703,000▲ 50,000
トリプルアイズAI顔認証、SI受託N/A25,000661,000▲ 10,000
アクアライン水回りサービス。決算月は2月N/A▲ 70,910384,000▲ 260,000

※1 数字は各事業者の最新の決算短信を参照

※2 暗号資産交換業を行っている事業会社は一覧には掲載していません