このレポートではバリュー株投資の一手法としてアクティビストが投資している銘柄に便乗する形で超割安株からキャピタルゲインを得るやり方について解説する。過去のレポートにも数回書いたが、アクティビストの動きが活発化している。2023年6月の定時株主総会では、過去最高の82社に対してアクティビストファンド等から株主提案が行われた。株主提案を受けた企業はPBR1倍割れ或は1倍以上であっても資本効率が低い企業である。日本市場においては東証によるPBR1倍割れの改善要請が追い風となりアクティビストが大量保有する銘柄に対する株価上昇期待は強まっている。

目次

  1. 市場はバリュー株がアウトパフォーム
  2. アクティビストとは?
  3. アクティビストの活動
  4. 日本株に投資する主なアクティビスト・ファンド一覧
  5. アクティビストの投資銘柄の探し方二通り
  6. シルチェスターの大量保有銘柄を調べてみる
  7. シルチェスターが大量保有するPBR1倍割れ5銘柄

市場はバリュー株がアウトパフォーム

10月3日の米債券市場では8月の雇用動態調査で求人件数が約2年ぶりの高水準となり、金利が長期にわたり高水準にとどまるとの見方が強まった。10年債利回りは4.806%、30年債利回りは4.950%に達し、いずれも2007年以来の高水準となった。米株式市場ではNYダウは1.29%下落、ナスダックは1.87%下落、S&P500は1.37%下落した。

10月4日の午前に円債相場は下落し、新発5年債利回りは0.335%と2013年7月以来約10年ぶりの高水準を付けた。日銀YCCの影響を受けにくい10年物の円スワップ金利は1月以来の1%台に上昇した。日本株市場は10月4日午前に日経平均は1.93%下落、TOPIXは2.01%下落した。

このような金利上昇圧力の中で株式市場では株価バリュエーションの高いグロース株の下押し圧力が強く、割安なバリュー株がアウトパフォームしている状況である。日経平均株価とTOPIX(東証平均株価)の比較チャートを見ると9月に入ってからのバリュー株のアウトパフォームしている状況がはっきり出ている。

(出所:Yahoo JAPAN ファイナンス)

アクティビストとは?

アクティビストとは、株主としての権利を積極的に行使し、投資先企業の価値が向上するように経営の見直しを求める投資家の総称である。投資家から資金を集めて高い利回りを狙う「投資ファンド」や、多額の資金を運用する「年金基金」などが挙げられる。

アクティビストは、株式を一定程度取得した上で、その保有株式を裏づけとして、投資先企業の経営陣に対して、対話・交渉のほか、株主提案権の行使、会社提案議案の否決に向けた委任状勧誘など、積極的に提言等を行い、また企業価値を向上させるために経営改革を積極的に働きかけるといった役割を果たす。

具体的な要求としては、手元資金の活用、コストの削減、事業の選択と集中、低収益事業の売却、高収益事業の買収・合併、改革消極派の役員退任、改革推進派の役員選任などが挙げられる。(出所:金融情報サイトiFinance

アクティビストの活動と株価

アクティビストは以前は「ハゲタカ」と呼ばれ企業の株価が下がっている時に株を買い占め、経営陣に圧力をかけて業績を短期的に向上させ、株価が上がったときに売却するという負のイメージが強かった。しかし、近年ではアクティビストが非効率的な経営をしている上場企業の経営を改革をしてきた事から負のイメージは大分解消されてきている。

アクティビストが株を買っているという事が大量保有報告書で開示されると該当企業の株価は上昇する傾向がある。マーケットがアクティビストの提案が企業価値を向上させる可能性があると判断するためである。一方、提案が拒否された場合には、株価は下落するリスクもある。株価下落によるリスクをできるだけ避けるためにアクティビストが投資している銘柄であり、且つPBR1倍を割れている企業を選ぶと大幅な株価下落リスクを回避できると考える。元々超割安であるので減資により赤字の補填等を行わない限り大幅に下落するリスクは極めて低いといえるだろう。

日本株に投資する主なアクティビスト・ファンド一覧

現在、日本株に投資しているアクティビスト・ファンド(順不同)

●ブランデス・インベストメント(米国)

●シルチェスター(英国)

●バリューアクト(米国)

●スパークス・アセット・マネジメント(日本)

●RMB Capital(米国)

●エフィッシモキャピタル(シンガポール)

●Oasis Management (香港)

●3D Investment Partners(シンガポール)

●ストラテジックキャピタル(日本)

●Nippon Active Value Fund(英国)

●シティインデックスイレブンス(日本)

 

現在、日本株に投資していない有名アクティビスト・ファンド

●Elliott Management(米国)

●Farallon Capital Management(米国)

●Third Point(米国)

●King Street (米国)

アクティビストの投資銘柄の探し方二通り

①アクティビストの株式の大量保有を調べるには金融庁の運営するEDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)を使う。

具体的な探し方はEDINETの画面上でアクティビスト・ファンドの名前を入れて、大量報告書をチェックし、検索キーを押すとそのアクティビスト・ファンドが大量報告した銘柄が表示される。ここではシルチェスターを例に調べてみる。

②もう一つのやり方はIR Bankを使って調べる方法である。IR Bankとは無料で利用できる株式ツールであるが、ここにシルチェスターと入れて検索すると大量保有銘柄をまとめてくれているのでIR Bankの方が使い勝手が良いかもしれない。

シルチェスターの大量保有銘柄を調べてみる

発行済株式の5%以上を保有した場合には大量保有報告書、5%以上を保有する株主の保有割合が1%以上増減した場合などに変更報告書を投資家からEDINET上で電子開示する義務がある。

ここでは英国のシルチェスター(Silchester International Investors LLP、運用資産約6兆円)を例に大量保有している銘柄を見ていく事にする。まずシルチェスターというファンドについてであるが、穏健派アクティビストとして知られ、財務分析を元に、割安性の高い銘柄に長期投資するバリュー投資を行っている。シンガポールをベースに元村上ファンドの幹部により設立されたエッフィシモ(Effissimo Capital Management Pte Ltd)に次いで日本株に多く投資しているファンドである。

シルチェスターの大量保有銘柄の検索結果はEDINETではこれになる。90件も提出書類があるためにこのレポート上に全て表示するのは難しいので、一部を載せる。90件全てを見るには上記リンクをクリックして結果は確認してください。

 

(出所:金融庁EDINET)

IR BankでEDINETの情報を基に保有銘柄をまとめてくれている検索結果はこちらである。全銘柄を載せるのは難しいので一部載せる。大量保有の全銘柄を見るには上記リンクをクリックして確認してください。

 

(出所:IR Bank)

IR Bankのまとめを数えてみるとシルチェスターは71銘柄を大量保有している。このうちPBR1倍割れでこれから株価上昇が期待される5銘柄についてファンダメンタル分析をしてみる。

シルチェスターが大量保有するPBR1倍割れ5銘柄

①住友大阪セメント(5232)

シルチェスターの保有比率:発行済株式の21.92%

企業概要:太平洋セメント、宇部三菱セメントに次いで国内3位のセメント・メーカー。日経平均株価の構成銘柄の一つ。セメント事業の他に鉱山品事業(石灰石、シリカ微粉等)、建材事業、光電子・新材料事業、不動産事業を手掛ける。フィリピンのHolcimに出資、中国・雲南省の雲南昆鋼嘉華水泥建材に出資、中国・広東省に光通信用部品の製造子会社、三菱マテリアルと平尾台(福岡県)共同事業を行っている。

業績推移:過去5期にわたり売上は下落傾向にある。2023年3月期は主力のセメント事業で国内販売価格の値上げにより売上高は前期比11.1%の2,047億円となったが、石炭価格の高騰等により営業損益は▲86億円、当期純損益は▲57億円となった。2024年3月期1Q決算はセメント値上げが浸透し、黒字を確保した。住友大阪セメントは2026年3月期までに非セメント事業の売上比率を35%(2023年3月期は30%)までに高め、特に半導体製造装置向け電子材料に注力していく方針である。セグメント別利益率を見てみると半導体製造装置用部品を作っている新材料事業はセグメント利益率が2023年3月期時点で24.84%と2019年3月期時点の13.34%より11.5ptも高まっている。主力のセメント事業のセグメント利益率は2022年3月期、2023年3月期と2期連続して▲1.88%、▲13.92%と赤字であった。赤字に陥る前の2021年3月期はセメント事業のセグメント利益率は4.72%と低かった。ロシア、ウクライナ戦争が終結しない限りセメントの生産コストは高止まりになる可能性が高く、またセメント需要が大きく伸びる事も考えづらい。利益率が高い半導体製造装置向け電子材料に注力していく事は企業価値を高めるであろう。また、住友大阪セメントは資本効率を改善するために政策保有株式の上場株式5銘柄を今期末までに売却すると9月末に発表した。政策保有株式については連結純資産の20%未満という目標を定めている。

②DOWAホールディングス(5714)

シルチェスターの保有比率:発行済株式の18.76%

企業概要:非鉄金属の製錬、加工、環境・リサイクル、金属加工、電子材料、熱処理、廃棄物処理を主たる業務とするDOAグループの持株会社。日経平均株価の構成銘柄の一つ。メキシコで亜鉛鉱山を保有運営。米国、タイ、インド、インドネシア、メキシコで熱処理事業を行っている。タイで金属加工事業、亜鉛加工を行っている。シンガポールで貴金属リサイクル事業を運営。台湾、メキシコで金属加工事業を運営。ミャンマーで環境・リサイクル事業を運営。前身の会社(藤田興業)から藤田観光(9722)を分離独立させた為に藤田観光の株式31.8%を保有している。

業績推移:2022年3月期は金属価格の上昇等により売上高が前期比41.5%増の8,318億円、営業利益が同70.4%増の638億円、当期純利益が同133.7%増の510億円と15期ぶりに最高益を更新した。2023年3月期は金属価格の下落、エネルギーコスト・資材価格上昇等により減収減益となり、売上高は前期比▲6.2%の7,800億円、営業利益は同▲30.1%の446億円、当期純利益は同▲50.9%の250億円であった。2025年3月期の経営目標は営業利益600億円、経常利益700億円、ROA10%以上、ROE12%以上としている。前提条件としてドル/円が120円、銅価格が10,000ドル/トン、亜鉛が3,800ドル/トンとしている。

DOWAホールディングスの100%子会社のDOWAエレクトロニクスは次世代パワー半導体でシリコンカーバイトより耐圧や熱伝導に優れるレアメタルの高純度ガリウムの世界トップシェアを持っている。DOWAグループの秋田製錬飯島製錬所の亜鉛製錬工程の副産物をはじめ、スクラップのリサイクルからも製造している。中国が8月1日よりガリウムの輸出規制を開始し、ガリウムの国際価格は1か月で約15%上昇し425USD/kgとなった。ガリウムに関しては中国の輸出規制が継続すれば価格は高止まりが予想され、DOWAホールディングスの業績にとってはポジティブである。

③三菱マテリアル(5711)

シルチェスターの保有比率:発行済株式の14.79%

企業概要:1990年に三菱金属と三菱鉱業セメントが合併し三菱マテリアルとして発足。非鉄の総合首位。伸銅品で日本国内シェアトップ。工作機械などに使う超硬工具では世界4位。銅加工品・電子材料等の製造・販売、超硬製品等の製造・販売、銅・金・銀・パラジウム等の製錬・販売、エネルギー関連(地熱発電、水力発電)・環境リサイクル関連、セメント等の事業を手掛けている。インドネシアにて銅精錬事業を運営。チリに銅鉱山を保有。2002年に住友金属工業とシリコンウェーハ事業統合会社、三菱住友シリコン(SUMCO、3436)設立。三菱マテリアルのSUMCO株式保有比率は4.38%である。セメントの生産量は太平洋セメント、住友大阪セメントに次いで国内3位。銅地金の生産、供給量はパンパシフィック・カッパー、住友金属鉱山に次いで国内3位。多結晶シリコンの生産、供給量はトクヤマ(4043)に次いで国内2位。

業績推移:2020年3月期は市況悪化に加え、コロナによる経済活動の停滞により電子材料事業などの収益性が低下し工場や子会社で減損損失を計上した事により最終損益は▲720億円と過去最大の赤字となった。2022年3月期は生産する銅やパラジウムなどの価格上昇で採算が上向いたほか、権益を持つチリの銅鉱山からの配当金も増え当期純利益は前期比84%増の450億円と好調ではあったものの最高益を記録した2008年3月期の当期純利益742億円の6割程度にとどまっている。業績とは別に2017年11月以降グループ会社で品質データ改竄が続き子会社役員が有罪判決を受けた。ガバナンス体制の問題が業績不振から抜け出せない要因の一つかもしれない。

日経新聞電子版で2022年6月29日に「三菱の名門」マテリアル、長引く業績低迷 ROIC低くという記事で業績不振について取り上げられている。以下日経記事からの要約引用。”過去の事業多角化や積極投資の成果を上げられず、ここ数年はリストラが続く。22年には自動車部品向けなどのアルミニウム事業を米投資ファンドに負債を含め約600億円で売却。神戸製鋼所と共同出資する銅管事業会社も国内ファンドに売却した。稼ぐ力はROICに現れるが、三菱マテリアルはWACC(加重平均資本コスト)を5%に設定している。三菱マテリアルではROICがWACCを上回れない(つまり企業価値を棄損)事が多かった。"(要約引用ここまで)しかし、連結従業員数が競合の住友金属鉱山(5713)の7,330人の約2.5倍の18,576人(2023年3月時点)と多く、売上は三菱マテリアルが1兆6,259億円、住友金属鉱山は1兆4,229億円であったが、当期純利益は三菱マテリアルが203億円、住友金属鉱山は1,606億円と8分の1程度であった。また従業員一人当たりの純利益は三菱マテリアルが109万円、住友金属鉱山は2,190万円と約20分の1と大きく差が開いている。三菱マテリアルはROICを最重要KPIとしているが、2023年3月期のROICは1.4%であった。2025年3月期にROICを5%との目標を掲げているが、ドラスティックなリストラが必要だと思われる。

④日本化薬(4272)

シルチェスターの保有比率:発行済株式の17.85%

企業概要:火薬事業からスタートした総合化学メーカー。現在は①機能性材料事業、②医薬事業、③セイフティシステムズ事業(自動車部品等)、アグロ事業(農薬、農業資材)を手掛けている。日本化薬が製造する環境対応型半導体封止用エポキシ樹脂(半導体を光、熱、湿気、ほこりや衝撃等から保護する半導体パッケージを構成する材料の一つ)で世界シェアNo.1、抗がん剤のブレオマイシンをはじめとして癌関連製品のラインナップは日本一、化薬の技術を使い自動車用エアバッグを膨らませるガス発生装置「インフレータ」、車両衝突時などにシートベルトを巻き取るための駆動力を生み出す小型ガス発生装置「マイクロガスジェネレータ」のシェアは国内No.1である。チェコ、中国、メキシコ、マレーシア、米国、オランダ、イギリスに製造販売拠子会社を持っている。海外売上高比率は2023年3月時点で53%。

業績推移:最高益を達成したのは2016年3月期であったが、2023年3月期通期は売上は過去最高の1,984億円を達成し、営業利益は前期比2.2%増の215億円であったが当期純利益は固定資産の減損損失計上等により同▲12.8%の149億円であった。2024年3月期1Q決算は微増収大幅減益決算であった。車部品は段階的に数量が回復したものの原価高を補えず、医薬は薬価改定の影響で減少、半導体関連のエポキシ樹脂等は顧客の在庫調整の影響で大幅減少であった。日本化薬は自己資本比率が76.5%と高く現預金は2023年6月時点で562億円、有価証券は59億円であった。現預金は3か月間で17%も増加した。10月4日付けで臨床段階の米国のがん治療薬ベンチャー企業Adlai Nortye社の日本での商品開発・販売に関する協力関係の強化のために第三者割当増資を4,000万USDで引き受けた事を発表した。(約60億円、発行済株式総数に対する議決権比率1.5%に相当)Adlai Nortye社はグローバルでブパルリシブ(乳がんの抗がん剤、開発コード:AN2025)を開発しており、9月29日にNasdaqに上場し、IPOに合わせた第三者割当増資である。

中期経営計画として2026年3月期に売上高2,300億円、営業利益265億円、営業利益率11.5%、ROE8%以上、ROIC10%以上を数値目標としている。これを達成するための施策は①中国・マレーシアでの生産能力拡大し、インフレータを中心に事業拡大、注力分野であるX線ビジネス、車載用偏向板部材の拡大。②エポキシ樹脂など半導体関連材料や装置・産業⽤インクジェットインクを中⼼に事業拡⼤。③バイオシミラー(先に販売されたバイオ医薬品の特許が切れた後に異なる製造販売業者によって開発された医薬品)、ジェネリック医薬品の拡大、医薬品安定供給のための生産設備整備、新製品導入としている。   
 

⑤フジ・メディア・ホールディングス(4676)

シルチェスターの保有比率:発行済株式の10.04%

企業概要:フジサンケイグループ。フジ・メディア・ホールディングスを認定放送持株会社として、子会社87社と関連会社50社で構成され、主として放送法に定める基幹放送や、配信、放送番組・映画・アニメ・イベント等の制作、映像・音楽ソフトの販売、音楽出版、広告、通信販売等のメディア・コンテンツ事業、ビル賃貸・不動産取引・ホテルリゾート運営等の都市開発・観光事業などを営んでいる。主な傘下企業にフジテレビ、仙台放送、BSフジ、ニッポン放送、ポニーキャニオン、扶桑社、ディノス、グランビスタホテル&リゾート(札幌グランドホテル、札幌パークホテル、銀座グランドホテル、鴨川シーワールド、京都インターゲートホテル、須磨海浜水族園・海浜公園)、サンケイビル等がある。2023年3月期時点で売上ベースではメディア・コンテンツ事業が76.5%、都市開発・観光事業が19.8%であったが、営業利益ベースではメディア・コンテンツ事業が52.2%、都市開発・観光事業が45%であった。

業績推移:売上高は2019年3月期の売上が6,692億円、2020年3月期が6,315億円であったが、2021年3月期は大きく落ち込み5,199億円となった。2022年3月期は5,251億円、2023年3月期は5,356億円と6,000億円台を回復できていない。しかし、2023年3月期には政策保有株式の3銘柄の売却により特別利益を160億円計上した事等により当期純利益は前期比88.3%増の469億円となった。フジテレビのドラマの人気の凋落と言われて久しいが近年はドラマ「Silent」の大ヒットによりFOD(フジが運営する有料動画配信サービス)の有料会員数が100万人を突破した。また、ドラマ「ミステリと言う勿れ!」の大ヒットにより映画が製作され9月半ばに公開された。10月1日までの興行収入は28億円となり3週連続1位である。この2年は人気コンテンツを生み出せるようになっている。しかし、セグメント利益率で見ると2023年3月期時点でメディア・コンテンツ事業は4.2%、都市開発・観光事業が13.9%と都市開発・観光事業の利益率が3倍以上高い。

過去数年事業ポートフォリオの見直しと再定義を行い2019年3月期にサンケイリビング新聞社の売却、2021年3月期にディノスにおけるセシールを売却した。視聴率とスポットシェア向上による放送収入の拡大は引き続き課題であるが、2023年3月期の映画事業収支は人気シリーズ「コンフィデンスマンjp 英雄編」のヒットにより過去最高を記録したが、今期も「ミステリと言う勿れ!」劇場版のヒットにより期待できそうである。フジテレビ以外のメディア・コンテンツ事業の営業利益が2022年3月期に初めて100億円超になり118億円となった。各社で配信・ネットビジネスの拡大、収益構造の転換が進んでいる状況である。 

都市開発・観光事業の成長戦略は主力のオフィスやレジデンスに加え、需要が拡大している物流施設やデータセンター、ホテルコンドミニアム等の開発を進め、アセットタイプを多様化を進めているところである。コロナ禍で赤字を計上していたグランビスタホテル&リゾートが2023年3月期に4期ぶりに黒字化し、売上もコロナ前の水準に回復した。鴨川シーワールドが過去最高益となる貢献をした。収益の柱となる大型水族館として神戸「須磨海浜水族園・海浜公園」の再整備事業を推進、2024年6月「神戸須磨シーワールド」オープン予定である。今後の成長投資に対応するため、サンケイビルに対して200億円の増資を実行した。

中期経営計画では連結自己資本比率を50%を下限に(2023年6月末時点で61%)外部借り入れを拡大し成長投資へ向ける。利益の獲得や外部借入、保有資産の見直し等によるキャッシュの創出をもとに、成長投資及び株主還元に投下するキャピタルアロケーションを推進する。政策保有株式の保有比率については投下資本(純資産と有利子負債の合計)の20%以下への減少を目指す。2023年3月期末時点では20%であった。2024年3月末までに100億円を上限とする自社株買いを行っているところである。2026年3月期の営業利益目標はメディア・コンテンツ事業から240億円、都市開発・観光事業から180億円、その他事業から10億円、計400億円としている。