「将来に備えてNISA枠を活用していますか?」
この質問に対して「活用しています。」と回答される方の中には、「つみたてNISA」を利用中の方も多いことでしょう。現在のNISA制度では、株式の購入に利用できる「一般NISA」と、毎月同じ投資信託を同額購入する「つみたてNISA」のいずれかを選択する必要があります。
このため、「つみたてNISA」の利用者が、非課税で個別株式に投資することは困難でした。
しかし、2024年1月にスタートする非課税投資制度新NISAでは、「つみたてNISA枠」と株式や不動産投資信託と呼ばれるJ-REIT*への投資も可能な「成長投資枠」を並用することが可能になります。
*賃貸不動産に投資を行う投資法人で、一般企業の株式にあたる投資口を東証に上場しており、証券口座を通じて1口単位で売買可能です。詳しくは過去のジャーナル記事をご参照ください。
さらに、投資枠の規模も拡大します。「成長投資枠」単体では年間240万円で合計1,200万円、「つみたてNIA枠」は年間120万円で、「成長投資枠」と合わせた上限は1,800万円です。
(出所:金融庁HP)
拡大後の非課税投資枠は、一般の人にとって十分に大きな金額であり、新NISA活用の巧拙は将来の資産形成に大きな差を生み出すことになりそうです。
「成長投資枠」を利用する上で、保有不動産からの安定した賃料収入を原資に分配(=配当)を行う高利回りのJ-REITは、相性のいい商品です。
新NISAに備えてREIT投資を勉強して、非課税制度を存分に活用して将来の資産形成を図りませんか?
前回(第1回)に引き続き、REIT投資を行う上で理解しておくべき「アセットタイプ」から、賃貸住宅と物流倉庫を取り上げて解説します。
さらに、執筆者が「アイデアブック」に投稿したアイデアについてもレビューします。
目次
1. 2023年4月のJ-REIT市場振り返り
東証REIT指数(配当無し)は、米国発金融不安の落ち着き及び日銀の金融政策変更懸念の後退により、3/20に1,750ppt.を付けた後上昇に転じ、4/28には前月末比+4.9%の1,873ppt.で取引を終えました。
4月末時点の平均分配金利回りは4.0%、10年物国債の利回り0.4%との差である、イールド・スプレッド*は3.6%でした。
*イールドスプレッドについては、「REIT投資の教科書 第8回」で解説しておりますので、ご参照ください。
アセットタイプ別では、賃貸住宅特化型(Residential REIT, 以下「レジREIT」といいます)、及び物流倉庫特化型(Logistic REIT, 以下「ロジリREIT」といいます)の値動きが好調で、「東証REIT住宅指数」は前月末比+8.1%、「東証REIT物流フォーカス指数」も同じく+8.1%上昇、と東証REIT指数の上昇をけん引しました。
個別リートのパフォーマンス上位3銘柄は、① アドバンス・レジデンス投資法人(3269 ADR) +11.5%、➁ CREロジスティクスファンド投資法人(3487 CLR) +10.8%、③ 日本アコモデーションファンド投資法人(3226 NAF)+10.7%と、レジREIT、ロジREITが上位を占めました。
一方、パフォーマンス下位3銘柄は、① いちごオフィスリート投資法人(8975 IOR) △9.0%、➁ ジャパンエクセレント投資法人(8987 JEI)△2.9%、③ NTT都市開発リート投資法人(8956 NUD)△2.8% で、オフィス特化型又はオフィスを中心に投資を行う複合型REITでした。ただし、JEIを除く2つの投資法人は、4月末に決算期を迎えており、配当落ちの影響も一因と思われます。
前回に引き続き、新NISAを使ったREIT投資に向けて、アセットタイプ毎の特徴と投資戦略を紹介します。今回取り上げるのは、賃貸住宅に投資するレジREITと、物流倉庫を投資対象とするロジREITです。
2. アセットタイプの特徴 (賃貸住宅/物流倉庫)
レジREIT、ロジREITの大きな特徴として、投資口価格の値動きが一般に穏やかなことが挙げられます。これは、賃料収入の変動率が小さいことに起因するもので、いわゆるディフェンシブなアセットタイプとも言えます。
どちらかと言えば、投資口の値上がりによるキャピタルゲインよりも、安定的なインカムゲインを重視してREIT投資を行う投資家にお薦めしたいアセットタイプであり、新NISAを使って個別REITへの投資デビューを考える人にとっても、比較的手掛けやすい商品群と言えるでしょう。
2023年4月のレジREIT、ロジREITの好調なパフォーマンスは、まさに不透明な市場環境で、持ち前のディフェンシブ性が投資家に選好された結果と考えられます。
J-REIT全体の動きを示す東証REIT指数と、レジREITのみを抽出した「住宅指数」、ロジREITを抽出した「物流フォーカス指数」を比べると、値動きの違いは明らかです。
東証REIT指数は、2023年2月以降下落に転じ、3/20にかけて1月の安値を大きく割り込みました(冒頭のチャートご参照)。一方、「住宅指数」は、3月の下落局面においても、1月の安値を下回ることなく、大きく反転上昇に転じました。
「物流フォーカス指数」は、3月に52週安値を更新したものの、1月以降値幅が小さくなり、下落幅も限定的でした。
こうした動きは、レジREIT、ロジREITが持つ投資口価格の下方硬直性、つまりディフェンシブ性を示していると言えるでしょう。
これが短期的な現象ではないことを検証するため、過去5年間の東証REIT指数(緑線)と、資産規模の観点でレジREIT最大のアドバンス・レジデンス(ADR,青線)、ロジREIT最大の日本プロロジスリート(NPR,赤線)の値動きを比較してみました。
コロナ前のJ-REITの上昇局面では、ADR、NPR共に大まかには東証REIT指数と連動した動きでした。強いて言えば、レジREITであるADR(青色)が時折REIT指数に勝っている(アウトパフォーム)している一方、ロジREITであるNPRは、REIT指数に負ける(アンダーパフォーム)局面が多かったと言えそうです。
新型コロナ第1波に見舞われた2020年の2~3月、全てのJ-REITが暴落レベルで値を下げましたが、NPR(赤線)及びADR(青線)は、REIT指数に比べて下落幅が小さく、その後もいち早く反発しています。
パニック局面で損失回避に動くには、個別リートを個々に売却するよりも、REIT指数連動ETFを売却する方が手っ取り早いため、REIT ETFの大量売却(ショート)の動きが発生します。
REIT ETFの下落は、指数の構成銘柄すべてに影響するため、個別REITは内容に関係なく一律に売られ、価格の下落に見舞われます。
恐怖を感じる局面ですが、こうした局面での行動こそが、成功する投資の要諦です**。
**J-REIT市場の値動きの特徴については、かつて「REITの教科書 第7回」で解説しましたので、ご参照ください。
こうしたパニック局面こそ、起こった事象が、個々のリートの収益にどのような影響を与えるのかを考えた上で投資判断すべきです。あなたの考えが正しければ、一時的な混乱の後、あなたの勇気ある挑戦はきっと報われるでしょう。
新型コロナを例にとれば、混乱からの消費収縮→景気悪化→商業不動産の空室率の上昇→賃料の低下との連想が働き、リートの投資口売却を誘いました。
しかし、冷静に考えてみれば、仮に所得が下がったとしても、マンションに住んでいる人が突然家賃を払わなくなるわけでも、引っ越しが頻発する訳でもなく、短期的な影響は限定的なはずです。
引っ越しにはお金がかかるので、短期的には引っ越しを抑制する要因として働くかもしれません。
物流倉庫も賃貸借契約の期間が長いため、賃料の変化が小さく、事象が短期間で収束するなら、影響は限定的でしょう。コロナ禍オンライン消費拡大により倉庫需要はむしろ拡大しました。
パニック局面が落ち着くと、こうしたアセットタイプ別の個別要因が、個々のリートの投資口価格の値動きに違いをもたらすことになります。
新型コロナは当初の予想よりも規模が大きく、長期化したため、コロナ禍でのリートの値動きに大きな違いをもたらしました。
5年のチャートを見ると、ロジREITのNPR(赤線)がコロナ禍で大きくアウトパフォームし続けたことが分かります。コロナ第1波直後のREIT指数に対するとのポジティブな差は、コロナ禍が長引くにつれて拡大しています。
下のNPRの投資口価格の値動きを見ると、2020年の半ばには、いち早くコロナ前水準を回復し、2022年1月にかけて大きく上昇しています。これはコロナ禍での外出制限を受けたEC利用の拡大→物流倉庫に対する需要拡大を見込んだ買いが集まった結果と言えるでしょう。
ただし、コロナ禍で大きく値を上げたロジREITはコロナの終息と、値上がりによる分配金利回りの低下により投資魅力が薄れたこともあり、直近1年間はアンダーパフォーム気味でした。
しかし、2023年3月にJ-REIT市場が1,800ppt割れした後は、ADR、NPR共にREIT指数を再びアウトパフォームしており、今後の動きが注目されます。
こうしたレジREIT、ロジREITが持つ市場の下落局面でのディフェンシブ性は、投資家に安心をもたらすものです。ただし、安定性が評価される結果、分配金利回りは、他のアセットタイプと比べて低くなる傾向があります。例えば、5/9現在、J-REITの平均分配利回り4.03%に対し、ADRは3.29%、NPRは3.18%と、REIT平均を0.7%~0.8%下回っています(利回りはJAPAN REIT.COMより)。
こうした傾向は、ディフェンシブな性質を有するレジREIT、ロジREITで最大の資産規模を有する銘柄に対するプレミアムと言い換えられるかもしれません。
執筆者は、J-REITを中長期的な視点で投資すべきアセットであり、上値追いではなく、下落局面での参入を検討すべき投資商品だと考えています。しかし、下落局面での参入とは、必然的に逆張り(下落局面で投資口を買うこと)を意味するため、① 投資タイミングを複数回に分ける、➁ 複数銘柄に投資するといった方法を考慮すべきでしょう。
複数銘柄に投資する場合、レジREIT、ロジREITといったディフェンシブなアセットタイプから取り組み始め、様子を見ながらアセットタイプを広げるなどすれば、より安心感を得られるかもしれません。
レジREIT、ロジREITへの投資検討のために、それぞれのアセットタイプをもう少し説明します。
3. レジREITの特徴
レジREIT投資のポイント:テナントの小口分散が効いているため、賃料収入が安定的で、賃料の変動率も小さい。リート保有物件は周辺地域で高い競争力を有するものが多く、稼働率は高位安定のケースが多い。景気の影響を受けにくいため、相場の下落局面で強い一方、相場の上昇局面では人気薄となる傾向がある。個別リートの選択にあたっては、東京への集中度及び部屋タイプの構成割合に注目。
個人投資家にとって、レジREITは身近なアセットタイプです。「レジディア」、「パークアクシス」、「コンフォリア」など、統一ブランド(スポンサー保有分を含む)を保有物件に付すリートもあるので、レジREITの保有物件をご存じだったり、実際にお住まいになった経験をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。
レジREITは保有物件数が多く、1棟のテナント数も非常に多いことから、小口分散が効いたポートフォリオを有する点が大きな特徴です。このため、1つのテナントが退去しても、ポートフォリオ全体に与える影響は極めて限定的です。
例えば、資産規模最大のレジREITであるアドバンス・レジデンス(ADR)は2023年4月末時点で、計277棟、取得価格ベースで4,731億円の物件を保有しており、その賃貸住戸数は21,994戸にのぼります。
資産規模が最も小さいスターツ・プロシード投資法人(8979 SPR)でも、2023年3月末時点で109棟、取得価格ベース1,015億円の物件を保有しており、賃貸住戸数は5,287戸です。
いずれも、テナント1戸の退去がリートの賃料収入に与えるインパクトは、ほぼ無視しうるものです。
いわゆるサラリーマン大家等個人所有の物件に比べ、ポートフォリオの規模が圧倒的に大きいことに加え、レジREITが保有する物件は大型で新しく、アクセスに優れる、周辺地域で高い競争力を有する物件が中心です。
そのため、物件の稼働は高水準を維持しており、足もとの稼働率はADR:97.3%、SPR:97.1%と、いずれも97%を超えています(レジ物件の稼働状況を説明する際は、空室率ではなく、稼働率で説明するのが一般的です)。
テナントとの契約は2年契約が多く、競合物件も多いことから、市場賃料へのサヤ寄せが早く進むため、既存賃料と市場賃料の差であるレント・ギャップは、オフィスと比べて小さくなります。
また、周辺の競合環境が短期間で大きく変わることも少なく、景気変動による影響も受けにくいことから、賃料の変動も限定的です。
こうした特徴から、レジREITは投資家がリスク回避傾向を強める局面で好まれる一方、アップサイド期待が高まる局面ではやや人気薄になる傾向があります。
現在、賃貸住宅(シニア住宅、学生寮を含む)に特化して投資するレジREITは7法人あり、ポートフォリオ戦略は、① 立地:東京(特に都心)、大都市、地方都市のバランスと➁ 物件タイプ:シングル、DINKS、ファミリータイプの構成割合で差別化されます。シニア向け住宅や、学生寮を投資対象に追加することで、ポートフォリオの多様化を図るレジREITもあります。
近年はネットで物件を探す人が多く、物件の築年数や最寄り駅からのアクセスが重視されます。したがって、レジREITは、築年15年以内、駅徒歩10分以内といった競争優位性のある物件でポートフォリオを構築するため、古くなった保有物件を売却して、若い物件を取得するという「物件入れ替え」を定期的に実施し、ポートフォリオの質の維持に努めます。
賃貸住宅は売買市場における流動性が高く、リートの保有物件は一般に高稼働であるため、入れ替えにより発生した譲渡益を投資家に分配するケースも多くあります。したがって、投資家にとって含み益が実現しやすいアセットタイプと言えるかもしれません。
レジREITの賃料収入を予測する上で重要な情報は、賃貸市場の賃料動向です。オフィスと同様、市場賃料インデックスも存在しますが、執筆者は、各レジREITが作成するIR資料、特にポートフォリオの稼働率とテナント入替・更新時の変動実績をモニタリングすれば十分だと考えています。
東京都心に特化する一部のレジリートを除き、レジリートのポートフォリオは地域、物件のタイプが多岐に亘っています。一方、手に入るマーケットデータは、限られた主要都市の大枠のみを示すものが多いため、各レジREITのポートフォリオの評価には情報不足と考えるからです。
下のチャートは、東京を中心に投資を行う日本アコモデーションファンド(3226 NAF)の2023年2月期の決算説明資料を抜粋したものです。資料には物件の稼働率、テナント入れ替え時の賃料変動、エリア別、カテゴリー別の賃料動向を把握できるデータが掲載されています。
例えば、稼働率データは、物件の稼働率が改善傾向にあることを示しているものの、コロナ前を依然下回っていることから、状況が変われば更なるアップサイドがあると読みとれるかもしれません。
また、テナントが退去して入れ替わった際の賃料は、増加傾向を示しているため、先行き賃料単価の増加が期待でき、テナントの退去はむしろアップサイド要因になるかもしれません。
さらに、地域別、カテゴリー別の賃料変動率を見ると、東京都心部にあるファミリー向け物件の賃料増加率が大きいことが読み取れます。こうした物件は賃料自体が高く、シングル向けに比べインパクトが大きそうなので、注目すべき材料かもしれません。
ここで示された傾向は、NAFのみの特徴ではなく、恐らく他のレジREITにも共通しているはずです。
例えば、都心のファミリー向けマンションの賃料上昇に注目して投資を考えるなら、そうしたタイプの物件の構成割合がより高いレジREITを探すというような方法もあるでしょう。
リートは年2回決算を行うため、決算期の異なる複数のレジREITはのIR資料を眺めることで、賃貸マーケットの変化を十分把握できると思います。
勉強好きの方のためにお伝えすると、無料で入手できる市場賃料データとして、例えばアットホームと三井住友トラスト基礎研究所が開発し、athome labが公表する「マンション賃料インデックス」などがあります。
athome labは他にも、レジマーケットに関する市況データや調査レポートを公開しているので、レジREITへの投資検討の際には参考にしましょう。
ややエッジケース(滅多にないこと)ですが、レジREITならではの特徴として、消費税率変化の影響が挙げられます。他のアセットクラスと違い、一般的な賃貸住宅の賃料には消費税が課税されません。このため、消費税増税が行われる場合、マイナスの影響に気を配る必要があります。
消費税増税が発生した場合、他のアセットクラスでは、売上、費用共に課税対象のため、増税の影響が相殺されやすい一方、レジREITについては、費用のみ増税分の支払いが増加するため、CFにマイナスの影響が発生しやすいと言えます。滅多に起こることではありませんが、頭の片隅に入れておいてください。
以下にレジREIT及び賃貸住宅への投資比率の高いリートをまとめます。
賃貸住宅特化型リート (2023年5月8日現在)
Ticker | リート名 | 投資対象 | PNAV (倍) | 時価総額 (億円) | 投資口価格 (円) | 利回り (%) | 決算期 (月) |
3269 | アドバンス・レジデンス | 東京23区:70% | 1.08 | 4,868 | 351,500 | 3.29% | 1/7 |
3226 | 日本アコモデーションファンド | 東京23区:84% | 1.12 | 3,312 | 658,000 | 3.19% | 2/8 |
3282 | コンフォリア・レジデンシャル | 東京23区:86% | 1.05 | 2,498 | 339,000 | 3.32% | 1/7 |
3278 | ケネディクス・レジデンシャル・ネクスト | ヘルスケア:25% | 0.97 | 2,286 | 213,600 | 3.88% | 1/7 |
3459 | サムティ・レジデンシャル | 地方中心 | 0.99 | 989 | 118,000 | 4.52% | 1/7 |
8979 | スターツプロシード | 首都圏:76% | 1.02 | 661 | 234,000 | 3.91% | 4/10 |
8986 | 大和証券リビング | ヘルスケア:29% | 1.05 | 2,622 | 116,000 | 3.79% | 3/9 |
(Source: JAPAN-REIT.COM, 投資対象は執筆者が各リートのHPから抜粋<小数点以下切り捨て>)
賃貸住宅への投資比率が高い複合型/総合型リート (2023年5月8日現在)
Ticker | リート名 | レジ比率 | PNAV (倍) | 時価総額 (億円) | 投資口価格 (円) | 利回り (%) | 決算期 (月) |
3309 | 積水ハウス・リート | 48% (Office:48%) | 1.08 | 4,868 | 77,400 | 4.79% | 4/10 |
8966 | 平和不動産リート | 50%(50.1%) (Office:50%) | 1.15 | 1,808 | 162,400 | 3.87% | 5/11 |
3451 | トーセイ・リート | 49% (Office:42%) | 0.88 | 472 | 130,700 | 5.46% | 4/10 |
(Source: JAPAN-REIT.COM, レジ比率は執筆者が各リートのHPから抜粋<小数点以下切り捨て>)
4. ロジREITの特徴
ロジREIT投資のポイント:EC市場拡大という中長期的なテーマが追い風。賃貸借契約は長いものが多いため、賃料収入は安定的で、短期的な相場変動要因の影響は小さめ。リート保有物件は大型、築浅物件を中心に高い競争力を有する物件が多く、稼働率は高位安定のケースが多い。減価償却費に比べ、物件維持に要する支出が小さいことから、利益超過分配を実施するリートが多い。成長戦略が、賃料上昇による内部成長よりも、新規物件取得による外部成長に偏る傾向も。決算期が集中しており、公募増資の頻発が投資口価格に悪影響を与えるケースに注意。
一見とっつきにくく感じるかもしれませんが、ロジREITは私たちの生活に密接に結びついています。ネットショッピングで買い物される方は多いでしょう。実際、ECの市場規模は拡大を続けており、今後も更なる拡大が予想されています。
例えば、AmazonのようなEC業者は、商品を巨大な倉庫に保管しており、注文を受けて物流倉庫から皆様の職場や家庭に宅急便で商品を配送します。こうした巨大物流倉庫を保有しているのがロジリートです。
巨大な倉庫の中で商品が仕分けされ、コンベアで運ばれる映像をご覧になられたことがある方も多いと思います。また、高速道路を走っているとインターチェンジのそばに巨大な物流倉庫を見かけることもあるでしょう。
EC市場の拡大により、近年大型物流倉庫に対する需要が急増しました。こうした状況を受けて、投資物件としての物流倉庫の地位は飛躍的に向上したため、ロジREITは、J-REITの中でも比較的歴史の浅い投資法人が多いと言えます。数年間に及んだコロナ禍でも、外出制限によるEC利用の拡大期待を背景に、ロジREITの投資口価格が高騰する局面が見られました。
EC市場の拡大という長期的なテーマを追い風としている点が大きな投資魅力である一方、今後は「物流2024年問題」や人手不足の影響などが注目されます。
他のアセットタイプに比べた大きな特徴として、ロジリートが保有する物件は、1つ1つが巨大で、築年が新しい点が挙げられます。例えば、日本プロロジスリート(NPR)のポートフォリオでは、61.4%の物件が築10年未満で、81%の物件が50,000㎡以上の賃貸可能面積を有しています。
物流倉庫の屋内は、巨大な無柱空間のため、内装設備が少なく、新しい建物が多いことも相まって、建物の維持補修に要する費用は限定的です。ロジREITは、建物の減価償却費に比べて実際に建物の維持補修に要する支出が少なく済むことから、他のアセットタイプのリートに比べ、内部留保しやすいという特徴があります。このため、ほとんどのロジREITは、内部留保を取り崩して利益超過配当を実施しています。
投資家から見ると、現金の分配を受けるという点において通常の分配金と同様であるものの、利益超過配当は投資元本の払い戻しのため、意味合いも税務上の取扱いも通常の分配金と異なります。他のアセットタイプのリートと比べる時は、利益超過配当抜きのベース(真水ベースとも言います)と、利益超過配当を含むベースの両方で比較しましょう。
また、物流倉庫の賃貸借契約の特徴として、契約期間が長いものが多いことが挙げられます。
レジ、ロジ共に稼働率の安定性が高いアセットクラスですが、その背景はやや異なります。
レジREITは大量の物件、大量の賃貸住戸を有するため、どちらかと言えば、大数の法則により稼働が安定するタイプといえます。一方、ロジREITは、賃貸借契約期間が長いという粘着性により高稼働を維持している、と言えるかもしれません。
大手ロジREITのGLP投資法人(GLP)を見ると、残存期間3年以上の契約が全体の58.2%で、そのうち7年以上の契約が20.3%となっています。この係数は残存期間の集計のため、原契約の契約期間は更に長いと思われます。特定のテナント用に建設されたBTS(Built to Suit)の場合、テナントとの契約は数十年の長期に亘るのが一般的です。
立地についても、他のアセットタイプのように都心や主要都市の中心部に位置する事は少なく、空港、港湾近隣地域、高速道路や幹線道路沿いなど、物流に便利な場所に集中しています。
物流倉庫内の作業には多くの作業スタッフが必要なため、接道状況だけではなく、労働者を確保しやすい立地であることも重要です。
このような背景から、近年、東京近郊では人口集積地を取り巻く、圏央道や国道16号線沿いでの新規開発が活発です。
関西についても、湾岸部と高速道路沿いに大型物流倉庫が集積しています。
物流倉庫として好まれる立地や躯体の条件は共通であることから、ロジREITのポートフォリオは似通ってくる傾向があります。
ロジREITの新規上場により、選択の余地が増えた点は投資家にとってポジティブですが、選択が難しくなった面があります。
プレイヤーは増加したものの、EC市場の拡大による需要の増加を背景に各ロジREITは高稼働を維持しており、2023年3月末時点の物件稼働率は、NPRが97.7%、GLPが99.1%でした。
物流倉庫については、リート保有物件の立地が重複しているため、空室率、賃料といったマーケットデータの分析が有効だと思います。
ポートフォリオが似通っているので、1つのリートのIR資料を分析することでロジREIT全体を大筋理解できる点は、REIT投資初心者にとって手掛けやすいと思います。
外部データとしては、例えば、物流倉庫の仲介を手掛けるCBRE社のサイト「賃料相場(最新) 倉庫 |【CBRE】 (cbre-propertysearch.jp)」などで、賃料相場を確認することができます。
物流倉庫の特徴である賃貸借契約期間の長さは、高稼働の維持や賃料低下というダウンサイドの防止に役立つ一方、賃料上昇に時間を要するという方向にも働きます。
ロジREITの稼働率がそもそも高いこともあり、ロジREITの成長戦略は、賃料増加による内部成長よりも、新規物件取得による外部成長に傾きがちです。
ロジREITは9法人が東証に上場していますが、その決算期は1/7月に2社、2/8月に4社と集中しています。物流倉庫への投資比率の高い産業ファンドと大和ハウスリートも含めると、集中度はさらに高まります。そのため、複数のロジREITが物件取得のために公募増資(PO)で資金調達を行う場合、POの頻発による需給懸念から、ロジREIT全体の投資口価格に下押し圧力がかかることがあります。
ロジREITへの投資を検討する際には、この点にご留意ください。
アセットタイプとしての物流倉庫への投資を検討する際は、レジREIT同様、特化型リートへの投資、又は物流倉庫への投資比率が高い複合/総合型リートへの投資が基本となります。
ただし、ロジREITについては、アセットタイプ特化型の上場投資信託であるETFを購入するという手もあります。
Global X社の「ロジスティクス・J-REIT ETF」(2565)という商品が東証に上場されており、1口単位で売買可能です。
2023年5月11日の終値は1,017円だったので、ほぼ1,000円からロジREITへの投資が可能なので、最近話題のポイント投資の対象として検討するのもいいかもしれません。
アセットタイプ別のETFが唯一上場しているという点は、ロジREITが個人投資家に人気があることの証左かもしれません。
物流倉庫特化型リート (2023年5月8日現在)
Ticker | リート名 | PNAV (倍) | 時価総額 (億円) | 投資口価格 (円) | 利回り (%) | 決算期 (月) |
3283 | 日本プロロジスリート | 1.14 | 8,564 | 311,500 | 3.18% | 5/11 |
3281 | GLP | 1.02 | 7,284 | 154,600 | 3.49% | 2/8 |
3471 | 三井不動産ロジスティクス | 1.12 | 3,006 | 339,000 | 3.35% | 1/7 |
8967 | 日本ロジスティックファンド | 1.06 | 3,002 | 321,500 | 3.20% | 1/7 |
3466 | ラサールロジポート | 1.03 | 2,918 | 163,500 | 3.76% | 2/8 |
3481 | 三菱地所物流 | 1.08 | 2,129 | 423,000 | 3.70% | 2/8 |
3487 | CREロジスティクスファンド | 1.11 | 1,166 | 186,700 | 3.97% | 6/12 |
2979 | SOSiLA物流リート | 1.04 | 1,000 | 137,500 | 3.92% | 5/11 |
3493 | アドバンス・ロジスティクス | 0.92 | 936 | 138,900 | 4.05% | 2/8 |
(Source: JAPAN-REIT.COM, 投資対象は執筆者が各リートのHPから抜粋)
物流倉庫への投資比率が高い複合型/総合型リート (2023年5月8日現在)
Ticker | リート名 | ロジ比率 | PNAV (倍) | 時価総額 (億円) | 投資口価格 (円) | 利回り (%) | 決算期 (月) |
8984 | 大和ハウスリート | 52% (Resi:26%) | 0.92 | 6,776 | 292,100 | 3.83% | 2/8 |
3249 | 産業ファンド | 51% (工場:33%) | 1.18 | 3,305 | 156,400 | 4.00% | 1/7 |
(Source: JAPAN-REIT.COM, 投資対象は執筆者が各リートのHPから抜粋)
5.「アイデアブック」のアイデア紹介
現状自己評価:まあ順調に育っているかと。
REIT指数が下落する中、現行NISA投資枠120万円での投資練習。
下落局面での逆張り投資では、下値リスクを限定したいことから、1月決算リートが配当権利落ちで下げた場面(落ち日の朝)でエントリー。
ディフェンシブな性格を持つレジREITから、PNAV1倍割れ銘柄をピックアップ。既に大きく売り込まれたリートを組み込みリバウンドを狙ったもの。
地方都市中心のポートフォリオで利回りの高いサムティ・レジデンシャル投資法人(3459 SRI)に全体の約50%を割り当て。約5%の利回りでポートフォリオ全体に2.5%のクッションを確保。
2番手はケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人(3278 KDR)。格付けAA-ながら、PNAVは1倍割れ、利回り4.2%の割安水準であったことから、全体の25%をアロケートし、クッションを3.5%に。
レジREITでクッションを作りつつ、メインシナリオのREIT市況の反転時にリバウンドが期待できそうな銘柄として、既に大きく売り込まれていた産業ファンド投資法人(3249 IIF)とヘルスケア&メディカル(3455 HCM)を少額ロング。
現在のところ、レジリートだけにしておけばよかったかも、との総評です。
現状自己評価:こちらも悪くない感じで、今後の成長に期待です。
3月のREIT指数1,800ppt.割れを受けて、スポンサー力の高い有力ハウスメーカー系の大型REIT2社をロング。
米国で商業用不動産に対する貸し渋り、金利引き上げの動きが懸念されており、日本への伝染を先回りしたポジション。
金利引き上げに対する抵抗力の源泉は、収益の安定性とスポンサー力。総合型リートのうち、レジ、ロジの保有比率が高く、大手ハウスメーカーをスポンサーする2リートをピックアップ。
メインは大和ハウスリート投資法人(8984 DHR)。ポートフォリオの約80%がロジ/レジで、物件含み益1,900億円にもかかわらず、PNAV0.8倍水準はかなり割安と判断。スポンサー力も高いので、逆張りにはピッタリかと。同様のノリで積水ハウスリート(3309 SHR)を少額ロング。オフィスとレジが半分ずつのポートフォリオ。オフィス部分の下値不安から、アロケーション金額を抑えてリスク調整。
さらなる下落が懸念される局面だったため、REIT ETFのショートで更なるリスクヘッジ。
借入金利の引き上げに備えるシナリオなら、実戦ではメガバンクをロングで合わせ買いするのもありかもですね。
「習うより慣れよ!」 投資には一定の知識が必要です。しかし、知識があれば、投資がうまくいくわけではありません。
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