前回半導体市場のアップデートのレポートを書いたのは2022年9月末でその当時は半導体市場、特にメモリーは2023年前半に調整が終わり年後半から回復かという楽観的な見方が多かった。しかし主要な半導体メーカーが決算発表を終え、今回の調整局面はもっと長引きそうであるとの見方をする人が増えている。
このレポートでは主要な半導体メーカーの直近の決算結果、先行きの見通し、半導体団体、調査会社による半導体業界の見通し等について紹介する。
フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)
(出所:Yahoo Finance US)
SOX指数は昨年11月のチャットGPTのローンチ後に大きく上昇し、年末になり調整した。年初より上昇トレンドにあり、4月に入りエヌビディアの1Q決算前の市場予測が弱気であった事から一旦下落した。しかし5月末の決算は予想以上の好決算であり、2Qの強気ガイダンスに株価が急騰しエヌビディアは半導体企業として初めて時価総額が1兆ドルを超えた。AI投資の加速から半導体銘柄全体が買われ6月、7月はSOX指数は上昇したが、8月に入り長期金利の上昇圧力の高まりとともに下落し、エヌビディアの市場予想を上回る2Q決算結果により上昇に転じた。SOX指数の年初来騰落率(2023/8/30まで)は43.9%である。
半導体各社の決算発表と見通し
①マイクロン・テクノロジー(MU)
マイクロン・テクノロジーの企業概要:メモリーとストレージに特化した米半導体企業。DRAM、NAND型、NOR型フラッシュメモリに集中。2012年に日本のエルピーダメモリを買収。
6月下旬に発表した3Q(3~5月期)の決算結果は以下の通りである。
3Q2023 | 2Q2023 | 3Q2022 | |
売上高 | 37.5億ドル(5,224億円) | 36.9億ドル | 86.4億ドル |
粗利益率 | ▲16.1% | ▲31.4% | 47.4% |
営業損益 | ▲14.7億ドル | ▲20.8億ドル | 31.4億ドル |
営業利益率 | ▲39.2% | ▲56.2% | 36.4% |
四半期最終損益 | ▲15.7億ドル | ▲20.8億ドル | 29.4億ドル |
希薄化後EPS | ▲1.43ドル | ▲1.91ドル | 2.59ドル |
前年同期比減収赤字転落決算であった。しかし、売上高が市場予想を上回り1株損益の赤字が市場予想程膨らまなかった事、またメルトラCEOが「メモリー業界の収益は底打ちしたと考えており、業界の需給バランスが徐々に回復するにつれて利益も改善すると期待している。」とコメントした事から決算発表後の時間外取引で4%近くマイクロン株は上昇した。3Q決算は2Q比増収し、営業損失は縮小しており、業績のボトムは2Qであったようである。
4Q(6~8月期)のガイダンス(Non-GAAP)は
売上高 | 39億ドル±2億ドル |
---|---|
粗利率 | ▲10.5%±2.5% |
営業費用 | 8.45億ドル±0.15億ドル |
希薄化後EPS | ▲1.19ドル±0.07ドル |
5月に中国の国家インターネット情報弁公室はマイクロン製品はサイバーセキュリティー審査を通過できなかったと発表し、「中国の重要情報インフラ施設のサプライチェーンに大きなセキュリティーリスクをもたらし、国家安全保障に影響を及ぼす。」との理由で、重要情報インフラ施設の運営者にマイクロン製品の調達中止を命じた。審査対象となったのはDRAMとNAND型フラッシュメモリーとの事である。(出所:JETRO ビジネス通信 中国、米マイクロン製品の調達停止、サイバーセキュリティー審査を通過できず 2023年05月24日)この中国での調達禁止の措置に関して米SECに報告書を提出しているが、この報告書によれば中国向け売上(香港を含む)はマイクロンの総売上の四分の一を占めており、そのうち半分が影響を受ける可能性があるとの事で、つまり売上に対する影響は▲12.5%位になるリスクがある。(出所:東洋経済オンライン 米マイクロン、中国で「売り上げ半減」のリスク 2023/06/28 )上記のガイダンスには中国での調達停止を加味しているものであり、このガイダンスより大きく下回る業績になる事は考えづらい。売上は3Q比増収を予定しているが赤字予想である。
②TSMC(TSM)
TSMC(台湾積体電路製造)の企業概要:世界最大の半導体受託製造企業。2022年時点のトップ5の顧客はアップル(23%)、クアルコム(8.9%)、AMD(7.6%)、Broadcom(6.6%)、エヌビディア(6.3%)であった。
TSMCが7月20日発表した2Q決算は四年ぶりの減収減益決算であった。しかし、減益幅は市場予想よりも小さかった。コロナ禍の特需の反動で世界的にスマートフォン、PCの需要が回復せず顧客企業の在庫調整が続いており減収減益であった。
2Q2023 | 1Q2023 | 2Q2022 | |
売上高 | 4,804億NTD(約2兆1,569億円) | 5,086億NTD | 5,341億NTD |
粗利益率 | 54.1% | 56.3% | 59.1% |
営業利益 | 2,018億NTD | 2,314億NTD | 2,622億NTD |
営業利益率 | 42% | 45.5% | 49.1% |
四半期純利益 | 1,818億NTD | 2,069.9億NTD | 2,370億NTD |
希薄化後EPS | 7.01NTD | 7.98NTD | 9.14NTD |
テクノロジー別売上の内訳は5ナノメートルが30%、7ナノメートルが23%、16ナノメートルが11%、28ナノメートルが11%等である。またプラットフォーム別の売上は以下の通りである。
プラットフォーム名 | 構成比 | 前年同期比 |
スマートフォン | 33% | ▲9% |
HPC* | 44% | ▲5% |
IoT | 8% | ▲11% |
自動車 | 8% | 3%増 |
デジタル民生機器 | 3% | 25%増 |
その他 | 4% | ▲5% |
*HPC(high performance computing、PC、サーバー、ゲーム機等)
ウェイCEOはAI関連の需要は高いものの、世界経済の回復が予想以上に遅れており、エンド・マーケットの低迷を相殺できていないとのコメントをした。AI関連の需要は急増しており、生産が追い付いていないために生産体制を増強する計画であると発表した。2QのAI関連の売上比率は全売上高の6%であったとearnings callで開示された。
3Qのガイダンスは以下の通りである。
売上高 | 167億~175億USD(5,144億~5,390億NTD、前年同期比▲12%~▲16%) |
---|---|
粗利益率 | 51.5~53.5% |
営業利益率 | 38~40% |
3Qに売上は回復すると想定しているが、営業利益率が2Qより低下すると会社側はみており利益ベースで大きく回復する事は難しそうである。3Qに営業利益率が低下する要因としてアップルの新型iPhoneが9月に発売予定であるが、新型iPhoneは初めて3ナノのチップセットを搭載予定であり、この3ナノのチップセットの製造コストが5ナノより高くなりそうだという事で3Qの営業利益率は2Qより低下とみている。また通期の業績予想を下方修正した。2023年の従前見通しは2022年通期の売上高2兆2,639億NTDから一桁台の減収を予想していたが、10%の減収と下方修正した。 2023年通期売上高新予想は2兆375億NTD。
また、米アリゾナ州の工場は2024年終盤から稼働予定であったが、技術者不足のために台湾から派遣する事になり2025年に稼働開始と延期した。熊本工場に関しては2024年から稼働と変更はない。
③ASML(ASML)
ASMLの企業概要:1984年に電機メーカーのフィリップスのリソグラフィ(露光装置)部門がスピンオフしてできた企業。ASMLはオランダの半導体製造装置メーカーで世界ランキングは米アプライド・マテリアルズに続き二位。チップ製造に不可欠な半導体露光装置を製造しており、世界のチップの85%はASMLの製品を使って作られている。回路パターンをウエハー上に転写する露光装置ではASMLのマーケットシェアは95%、EUV(極端紫外線)露光装置のマーケットシェアは100%である。インテル、TSMC、サムスン等先端半導体を製造しているメーカーはASMLの顧客である。
7月19日に発表した2Q決算は以下の通りである。
2Q2023 | 1Q2023 | 2Q2022 | |
売上高 | 69億€(1兆778億円) | 67億€ | 54億€ |
粗利率 | 51.3% | 50.6% | 49.1% |
営業利益 | 23億€ | 22億ユーロ | 16.5億€ |
営業利益率 | 32.8% | 32.7% | 30.4% |
四半期純利益 | 19億€ | 19.6億€ | 14億€ |
希薄化後EPS | 4.93€ | 4.95€ | 3.54€ |
売上の製品別の内訳はArFi(ArF液浸)露光装置(前世代の露光装置)が49%、EUV露光装置が37%であった。ユーザー別売上はロジック半導体メーカーが84%、メモリー半導体メーカーが16%であった。
後述するが、ASMLも米国による半導体対中規制の影響を受けている。先端半導体製造に欠かせないEUV露光装置は中国に輸出する事はできず、中国向けにはレガシーのArFi露光装置を輸出している。
3Q、及び2023年通期の見通しは
3Q売上高 | 65億€~70億€(前年同期比12.5%~21.1%増) |
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粗利益率 | 50% |
2023年売上高 | 276億€(前年比30%増) |
ASMLは2023年12月通期のEUV露光装置の出荷台数を約60台としていたが、約52台に下方修正した。これはTSMCのアリゾナ工場の稼働開始の延期によると推測する。ArF液浸露光装置については、米、欧州、日本はともに規制を強化する。オランダ政府は2023年9月1日以降、ArFi露光露光装置の対中国輸出は全て輸出許可を申請する必要がある。
④サムスン電子
サムスン電子の企業概要:スマートフォン、薄型テレビ、半導体メモリ(NANDフラッシュメモリ、DRAM)、中小型有機ELディスプレイで世界シェア1位。
7月27日に発表した2Qの半導体(Device Solution)部門の決算結果は以下の通りである。ここでは全社の業績ではなく半導体部門の業績のみ取り上げる。
2Q2023 | 1Q2023 | 2Q2022 | |
売上高 | 14兆7,300万KRW(1.6兆円) | 13兆7,300万KRW | 28兆5,000万KRW |
営業損益 | ▲4.36兆KRW | ▲4.58兆KRW | 9.98兆KRW |
営業利益率 | ▲29.6% | ▲33.4% | 35% |
2Qのメモリの状況は顧客の在庫調整が続くなかサーバー需要は引き続き低迷した。しかしAI関連投資をしているハイパースケーラー(100万台以上の巨大規模なサーバーリソースを保有するクラウド企業)からの高密度、高性能製品の需要は引き続き強かった。価格下落、NAND型フラッシュメモリの評価損があったが1Qに比べて営業損失は改善した。
年後半の見通しは供給側の生産削減の状況のなか顧客企業の在庫調整は進み需要は徐々に回復すると見ている。スマホの新商品やPCのプロモーションで需要は一定水準回復し、サーバーからの需要は年後半には在庫が枯渇し需要が回復すると見ている。メモリに関しては減産を継続する。
⑤インテル(INTC)
インテルの企業概要:世界最大の半導体メーカー。中央演算処理装置(CPU)世界シェア一位。クラウド、5G、AI、自動運転、メタバース関連まで展開している。自社生産。NANDメモリーはSKハイニックスに売却した。
7月27日に発表した2Qの決算結果(Non-GAAP)は以下の通りであった。
2Q2023 | 1Q2023 | 2Q2022 | |
売上高 | 129億ドル(約1兆8,834億円) | 117億ドル | 153億ドル |
粗利率 | 39.8% | 38.4% | 44.8% |
営業損益 | 4.5億ドル | ▲2.9億ドル | 14億ドル |
営業利益率 | 3.5% | ▲2.5% | 9.2% |
四半期純損益 | 5億ドル | ▲2億ドル | 11億ドル |
希薄化後EPS | 0.13ドル | ▲0.04ドル | 0.28ドル |
前年同期比で減収決算であったが営業損益、四半期純損益共に黒字を確保できた。四半期純損益は前年同期比52%減であった。算の推移を見る限り1QFY2023が業績的な底であったようである。
3QのガイダンスはNon-GAAPベースで
売上高 | 129億~139億ドル |
---|---|
粗利益率 | 43% |
税率 | 13% |
希薄化後EPS | 0.2ドル |
売上は2Q比横ばいから7.8%増、粗利益率は同3.2pt改善を計画しており、希薄化後EPSは0.2ドルと1Q比53.8%増と大幅増益の会社計画である。PC市場の落ち込みの影響を受けているが、インテルの第四世代XenonサーバーはAIエンジンを搭載しており少なくとも25%はAIワークロードの実行用に購入されていると会社はコメントしている。AI トレーニングと推論の両方を行う 「 Gaudi2 AI アクセラレータ」はAWS、Hugging Face、Stability AI等が顧客である。「 Gaudi2 AI アクセラレータ」はChatGPTのトレーニングに使用されてきたNvidiaの「A100」データセンターGPUの代替としてこのチップを販売し、競合他社の2倍のトレーニングスループットを実現し、運用コストを削減できるとインテルは主張している。「 Gaudi2 AI アクセラレータ」は2024年迄に10億ドル以上のパイプラインを獲得している。
⑥アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)
AMDの企業概要:中央演算処理装置(CPU)、画像処理半導体(GPU)等の製造を行っている。CPUはインテルに次ぎ世界シェア二位、GPUはエヌビディアに次ぎ世界シェア二位。
8月1日に発表した2Qの決算結果(Non-GAAP)は以下の通りであった。
2Q2023 | 1Q2023 | 2Q2022 | |
売上高 | 53.6億ドル(約7,654億円) | 53.5億ドル | 65.5億ドル |
粗利率 | 50% | 50% | 54% |
営業損益 | 10.7億ドル | 10.9億ドル | 19.8億ドル |
営業利益率 | 20% | 21% | 30% |
四半期純損益 | 9.5億ドル | 9.7億ドル | 17億ドル |
希薄化後EPS | 0.58ドル | 0.6ドル | 1.05ドル |
前年同期比で減収減益の決算であった。四半期純損益は同44%減であった。プラットフォーム別売上の内訳はデータセンター13.2億ドル、ゲーミング15.8億ドル、クライアント9.98億ドル、エンベデッド(組み込み)14.6億ドルであった。AI関連の受注(契約)は2Qに前年同期比7倍以上となった。
3Qのガイダンスは、売上高が57億ドル±3億ドル、前年同期比2.5%増、プラットフォーム別の売上高の前年同期比はクライアントは増加、データセンターは横ばい、ゲーミング、エンベデッドは減少を予定している。
4Qに新型AI半導体「Instinct MI300」シリーズを発売予定でいるが、3Q、4Qの下半期は売上が前年同期比50%増と会社は計画している。また4Qにエヌビディアの「H100」に対抗するAI向け半導体「MI300」の生産を増強する計画である。エヌビディアの「H100」は供給が不足しており、「MI300」シリーズの顧客の関心は極めて高く、強い需要が期待される。
AMDは昨年導入された米輸出管理規則に基づき先端GPUチップである「Instinct MI250」の中国への輸出を禁止されているが、スーCEOはearnings call上で 「米国の輸出規制を完全に順守するが、AIソリューションを求めている中国の顧客層向けに製品を開発する機会があると信じており、その方向で引き続き取り組んでいく」とコメントしている。AMDでは2027年までの中国でのAI半導体市場の規模が1,500億ドル(約22億円)になると試算している。
⑦レーザーテック(6920)
レーザーテックの企業概要:先端半導体向けマスク欠陥検査装置が柱。EUV光源品はほぼ独占状態である。2022年6月通期時点のトップ3の顧客はインテル、サムスン、TSMCである。
8月7日に発表した2023年6月通期の決算結果は以下の通りであった。
FY2023通期 | FY2022通期 | |
売上高 | 1,528億円 | 904億円 |
粗利率 | 54.9% | 52.8% |
営業利益 | 623億円 | 325億円 |
営業利益率 | 40.8% | 35.9% |
当期純利益 | 462億円 | 249億円 |
EPS | 511.89円 | 275.57円 |
売上、全ての利益段階で最高を更新した決算であった。製品ミックスの良化と円安効果で期初予想を上回る営業利益であった。営業利益率は前期比4.8pt増と大幅に改善し40.8%であった。製品別売上高構成は半導体関連装置が前期比72%増の1.307億円、サービスが同52%増の189億円であった。受注は前期比42.4%減の1,865億円と史上2番目の水準となった。一方受注残高は同9.2%増の4,029億円と史上最高の受注残高を記録した。
2024年6月期のガイダンスは以下の通りである。
売上高 | 1,900億円 | 前期比24.3%増 |
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営業利益 | 640億円 | 同2.7%増 |
営業利益率 | 33.7% | 同▲7.1pt |
当期純利益 | 470億円 | 同1.8%増 |
設備投資 | 18億円 | 同▲92.2% |
減価償却 | 45億円 | 同29.1%増 |
今通期に関しては売上高は24.3%増を予想しているが、減価償却の増加により営業利益率の7.1pt悪化を想定しており、また通期の為替レートを1USD=125円とかなりの円高を想定している事等から当期純利益は微増を想定している。
今期より受注高予想を非開示とした。受注高予想は短期変動が大きく中長期的な成長トレンドを予想する指標としての信頼性が低下する事から非開示とした。
レーザーテックの足元の市場動向の見方についても開示した。半導体デバイスメーカーは短期的には設備投資に慎重な姿勢であるが、過剰な在庫の解消と需要の高まりによってCY2024前半に回復すると見ている。3ナノの生産はCY2022の下期より開始し、2ナノの生産はCY2025頃に実現される計画と考えている。次世代EUV(極端紫外線)露光装置の開発は計画通り進行している。AIサーバー向け半導体チップの需要が急拡大し半導体需要を押し上げると見ている。カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みとしてEV等の需要・生産拡大により化合物半導体(シリコン半導体のように材料が一つの元素からなる半導体とは異なり、2つ以上の元素を材料とする半導体)への投資が活況になると考えている。
⑧キオクシア(未上場)
キオクシアの企業概要:旧東芝メモリ。2017年に東芝の半導体メモリ事業を分社化して設立され、2018年にグループから離脱して持分法適用会社となった。主力商品はNAND型フラッシュメモリ、USBフラッシュメモリ、SDメモリーカード、SSD(solid state drive)。
8月9日に発表した2024年3月期1Q決算結果は以下の通りである。
1QFY2024 | 4QFY2023 | 1QFY2023 | |
売上高 | 2,511億円 | 2,452億円 | 3,673億円 |
営業利益 | ▲1,308億円 | ▲1,714億円 | 851億円 |
営業利益率 | ▲52% | ▲70% | 23% |
四半期純利益 | ▲1,031億円 | ▲1,309億円 | 426億円 |
EBITDA | ▲365億円 | ▲645億円 | 1,888億円 |
1Qの決算結果はPC、スマホ向け顧客の在庫水準改善によって4QFY23比出荷が10%台前半の増加となり、売上高は同小幅に増収した。販売単価の下落幅は1%台半ばと4QFY23の20%台後半より大幅に緩和し営業損失は縮小した。
未上場であるので2Qのガイダンスは公表していないが、市場動向についてはコメントをしている。フラッシュメモリメーカー各社による生産調整が拡大しており需給バランスは徐々に改善が進んでいる。顧客の在庫消化の進展とPC及びスマホのメモリ搭載量増加傾向等を背景に回復すると予想されており、販売単価の下落も需給バランスが改善するにつれて落ち着きつつある。
8月に入りNAND型フラッシュメモリーの市況悪化の長期化から建設中の製造棟の稼働時期を、当初予定していた2023年中から2024年以降に延期した。
⑨東京エレクトロン(8035)
東京エレクトロンの企業概要:半導体製造装置で世界3位。コーダデベロパー、エッチング装置、成膜装置等前工程に強み。またFPD製造装置も手掛ける。
8月10日に発表した2024年3月期1Q決算結果は以下の通りである。
1QFY2024 | 4QFY2023 | 1QFY2023 | |
売上高 | 3,917億円 | 5,583億円 | 4,737億円 |
粗利率 | 41.4% | 45.1% | 42.3% |
営業利益 | 824億円 | 1,528億円 | 1,175億円 |
営業利益率 | 21% | 27.4% | 24.8% |
四半期純利益 | 643億円 | 1,187億円 | 881億円 |
1Q決算は顧客の設備投資の減少を受けて減収減益であった。中国向け売上については後述しているが、対中規制により先端半導体製造装置は輸出できないが、IoT向けにレガシー半導体製造装置の需要が拡大し中国向け売上比率は大きく上昇し四割近くになった。
通期の会社計画の業績予想は
売上高 | 1兆7,000億円 | 前期比▲33.2% |
---|---|---|
営業利益 | 3,930億円 | 同▲36.4% |
営業利益率 | 23.1% | 同▲4.9pt |
当期純利益 | 3,000億円 | 同▲36.4% |
EPS | 642.23円 |
2024年3月期通期は会社計画は減収減益を予想している。
WFE(半導体ウエハ製造装置)市場の見通しに関しては、CY2023の市場規模は700~750億ドルになるとみている。国際的な半導体業界団体のSEMIの調査によるとCY2022のWFE市場の実績は941億ドルであった。先端ロジック/ファンドリでは在庫調整(特にNANDフラッシュメモリ)に時間がかかっており投資遅延がみられるが、レガシーにおける中国顧客の投資は加速している。先端ロジック/ファンドリの回復はCY2024に入ってからまずDRAMが回復し、次にNANDが回復すると見ているとのコメントがあった。CY2024、CY2025合わせてWFE市場は市場規模が2,000億ドル位になるとみている。
⑩アプライド・マテリアルズ(AMAT)
アプライド・マテリアルズの企業概要:世界最大の半導体製造装置メーカー。成膜装置、イオン注入装置、エッチング装置等を扱う。中国、韓国、台湾、日本向け売上が8割を占める。
8月17日に発表した3Q決算結果(Non-GAAP)は以下の通りである。
3Q2023 | 2Q2023 | 3Q2022 | |
売上高 | 64.3億ドル(約9,388億円) | 66.3億ドル | 65.2億ドル |
粗利率 | 46.4% | 46.8% | 46.2% |
営業利益 | 18.2億ドル | 19.3億ドル | 19.6億ドル |
営業利益率 | 28.3% | 29.1% | 30% |
四半期純利益 | 16億ドル | 16.9億ドル | 16.8億ドル |
希薄化後EPS | 1.9ドル | 1.94ドル | 1.94ドル |
3Q決算の結果はガイダンスの上限という好調な業績であった。戦略としてIoT、通信、自動車、エネルギー、センサーにフォーカスしているためにファンドリー/ロジック、NANDの在庫調整や落ち込みの影響が大きくなく、減収幅、減益幅が一桁台で済んだ。
4Qのガイダンスは売上高が65.1億ドル±4億ドル、Non-GAAPベースの希薄化後EPSが2ドル±0.18ドル。半導体システムの売上が47.5億ドル、このうちDRAM向け売上が3Q比5億ドル増加を見込んでいる。組み立て、メンテナンス売上が14.2億ドル、ディスプレイ売上が2.9億ドルを予定している。
⑪エヌビディア(NVDA)
エヌビディアの企業概要:世界最大のGPU(画像処理半導体)メーカー。2000年代前半までゲーミング向けやクリエイティブ業務向けのGPU開発を事実上の専業としていたが、CUDA(GPU向けの汎用並列コンピューティングプラットフォームおよびプログラミングモデル)の発表以降はコアビジネスおよび開発リソースは、GPUによる汎用計算(GPGPU)専用設計のTeslaシリーズや、ARMプロセッサと統合されたSoCであるTegraなどに移行している。
8月23日に発表した2Q決算は売上、EPSともに大幅に市場予想を上回り過去最高益を達成した決算であった。売上高は前年同期比倍増、営業利益は同6倍近く増加し77億7,600万ドル、四半期純利益は同5.2倍増の67億4,000万ドルであった。データセンター向け売上は前年同期比171%増、1Q比2.4倍増の103億2,300万ドルとなった。データセンター向け売上の構成比率は76.4%と1Qの59.6%より16.8pt上昇した。
2Q2024 | 1Q2024 | 2Q2023 | |
売上高 | 135億ドル(約1兆9,575円) | 71.9億ドル | 67億ドル |
粗利率 | 71.2% | 66.8% | 45.9% |
営業利益 | 77.8億ドル | 30.5億ドル | 13.3億ドル |
営業利益率 | 57.6% | 42.4% | 19.8% |
四半期純利益 | 67.4億ドル | 27.1億ドル | 12.9億ドル |
希薄化後EPS | 2.7ドル | 1.09ドル | 0.51ドル |
3Qのガイダンスは、売上高は160億ドル±2%。粗利益率はGAAPベースで71.5%、Non-GAAPベースで72.5%±0.5%。営業費用はGAAPベースで29.5億ドル、Non-GAAPベースで20億ドルを予定している。営業外損益はGAAPベース、Non-GAAPベースともに1億ドルの予定で持分法適用会社の損益を除く金額である。税率は14.5%、±1%を予定している。
上記ガイダンスに基づきNon-GAAPベースで3Qの業績を概算してみた。中央値を使い計算してみると売上高160億ドル、粗利益は粗利率72.5%の116億ドル、営業費用20億ドル、営業利益96億ドル、営業利益率60%になるが、旺盛なデータセンター向け需要を考えると営業利益率60%は妥当な数字であるように思える。
2023年世界半導体市場予測
WSTS(World Semiconductor Trade Statistics/世界半導体市場統計)が2023年6月6日に発表した2023年春季の世界半導体市場予測によると、2023年の世界半導体市場規模(パワー半導体も含む)は2022年比10.3%減の5,150億9500万米ドルで、2019年以来4年ぶりのマイナス成長になる見込みである。
出所:WSTS
WSTSは「景気の先行きが見通しにくい中、2022年途中から続く下押し要因が当面は継続すると見込んだ。特にスマートフォンやPCなどの民生機器の需要低迷が影響し、メモリを筆頭にマイナス成長となる見込みだ。ただし、電動化の進む自動車用途や再生エネルギー関連用途は引き続き需要が強いとみられ、製品別では特にパワーディスクリートの成長が継続する予測だ。また、生成AI需要の急激な高まりが一部のロジック半導体需要を押し上げる見込みだ」としている。
2024年は2023年比11.8%増の5759億9700万米ドルに市場が再拡大する予測。2023年の下支え要因に加え、世界景気も回復に向かうという前提のもと、ほとんどの用途と製品でプラス成長を見込んだ。
WSTSによると日本市場は2023年は自動車用途などが下支えしてプラス成長を継続し、2022年比1.9%増の約6兆4,494億円になると予測した。2024年は2023年比7.8%増と成長が再加速し、市場規模は約6兆9537億円になると見込まれている。
(出所:EE Times Japan 「2023年世界半導体市場は前年比10.3%減、WSTS予測」 2023年6月8日)
ロジック、メモリーの市場予測
上記WSTS予測の世界半導体市場予測のうち、ロジック(演算処理に使われる、汎用性の高いCPU、生成AIに使われるGPU等)、メモリーの市場予測は以下の通りである。
出所:WSTS
ロジックに関してはChatGPTのローンチ以降AI投資が加速しGPUの需要が強い事等によりコロナ禍の特需の後の反動での落ち込みはCY2023▲1.8%予想とメモリーに比べて小さい。メモリーはCY2023▲35.2%と在庫調整による落ち込みが大きい。
AI半導体市場見通し
米のIT市場調査会社のガートナーが8月22日にAI半導体市場の見通しを発表した。ガートナーの予測によるとAI半導体市場は2023年に前年比20.9%増の534億米ドル(約7兆7600億円)となる見込みとの事である。AI半導体の市場規模は今後も2桁成長を続ける見込みで、2024年には2023年比で25.6%増となる671億米ドル(約9兆7600億円)と予測する。さらに2027年には、2023年の市場規模の2倍以上となる1,194億米ドル(約17兆4000億円)を見込んでいる。
企業におけるAIベースの各種作業への利用が広がるにつれて、AI半導体を含むシステムを導入する環境は広がる。ガートナーのアナリストは、コンシューマーエレクトロニクス市場において、2023年末までにデバイスに使用されるAI対応アプリケーションプロセッサの価値は12億米ドルに達し、2022年の5億5800万ドルから大きく増加すると予測している。
(出所:MONOist:AI半導体の売上高は2027年までに倍増へ、2023年は534億米ドルの見込み 2023年08月24日)
米国による半導体対中規制
2022年10月に米国が先端半導体の中国への輸出規制を発動した。スーパー・コンピュータやAIに使う先端半導体やその製造に必要な装置、技術について、中国への輸出を事実上禁じたが、この影響を受けているアメリカの半導体企業はマイクロン、エヌビディア、AMDである。上述しているが、マイクロンはDRAM、NAND型フラッシュメモリーの在庫調整による需要減に加えて中国への輸出禁止の製品の売上への影響が▲12.5%と一番影響を受けていると思われる。AMDも先端GPUチップである「Instinct MI250」の中国への輸出を禁止されているが、米国の輸出規制を完全に順守するが、AIソリューションを求めている中国の顧客層向けに製品を開発するとコメントしている。エヌビディアは中国市場向けへの機会損失よりもデータセンター向け需要が大き過ぎであり、輸出規制により供給不足が緩和されている部分もあるかもしれない。
米国以外の半導体企業への影響であるが、半導体製造装置市場は米国、オランダ、日本の三国で寡占化しており、西側陣営としては同調せざるを得ず、オランダのASML、東京エレクトロンは影響を受けている。しかし、両社とも先端半導体に代わりレガシー半導体の需要が増加しており、売上への大きなマイナスの影響はなさそうである。
アナリストによる見解
メモリー市場の本格的な回復は来年2024年にずれ込みそうだと考えている。キオクシアはNAND型フラッシュメモリーの市況悪化の長期化から減産体制を延長した。またサムスン、SKハイニックスは減産幅を更に引き上げた。一方ロジックに関しては生成AI需要の急激な高まりから1Qを底として2Q以降回復しているようである。下図は米半導体市場調査会社のSEMIとTechInsightが共同で発行している 8月15日付けのSemiconductor Manufacturing Reportに掲載されているが、ロジックICの売上は既に回復トレンドに入っているようである。
(出所:SEMI/TechInsight “世界半導体産業は向かい風が年内は持続、2024年から回復へ”)
一方AI半導体市場についてはシリコンサイクルとは別の、右肩上がりに市場が拡大するステージにある。生成AI革命はまだ始まったばかりでありAI半導体市場はIDCの予測によると2027年には1,194億米ドル(約17兆4000億円)まで成長するとの事である。AI半導体市場でエヌビディアは機械学習の市場で95%というほぼ独占的なシェアを持っているとも言われており、供給不足のリスクはあるもののAMDやインテルがこの牙城を崩すのはほぼ不可能であろう。ただ、一社のみのAIチップを使うというのはデータセンター側からしてみればリスクであり、AMDやインテルのAIチップも需要は伸びると考えている。
先日のエヌビディアの決算発表後にセルサイド・アナリスト達は業績予想を上方修正した。Bloombergの集計によると今期、来期、再来期のコンセンサスEPSは10.645ドル、16.71ドル、19.757ドルである。PERにすると今期は46.36倍、来期は29.54倍、再来期は24.98倍と割安感が大きい。AI半導体市場での圧倒的な強さを持つエヌビディアの株価バリュエーションが来期、再来期ベースで20倍台とはあまりに割安な印象があり、利益成長がまだ織り込まれていない印象がある。