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前回、親子上場解消について一年前に「親子上場解消で儲かる?TOBを利用した賢い投資手法と銘柄紹介」というレポートを書いたが、2025年2月末にイオングループが親子上場解消を発表した。少数株主の利益保護と企業価値向上の目的での親子上場解消との事である。

この他に東証の市場改革での親子上場を解消した企業もあったが、上場基準を満たさない企業の3年間の経過措置が2025年3月31日に終了する為に東証の市場改革による親子上場解消の動きはほぼ終了したと思われ、今後は投資家からの圧力での親子上場解消が増えると予測される。

このレポートではイオンの親子上場解消の他企業への影響について説明し、これから親子上場を解消しそうな企業について紹介する。

目次

  1. イオングループの親子上場解消
  2. 殆どの経過措置企業は基準をクリア
  3. 投資家からの圧力による親子上場解消が増える
  4. 親子上場を解消しそうな企業

イオングループの親子上場解消

イオン(8267)が2025年2月28日にグループ企業でショッピングセンターの開発・運営を手掛けるイオンモール(8905)とグループの商業施設を中心に施設管理を行うイオンディライト(9787)を完全子会社化すると発表した。イオンモールに関しては株式交換による子会社化で2025年7月を目処に効力発生日として行う予定である。イオンディライトに関してはTOBを実施する。TOBは2025年3月3日から4月24日まで実施する予定で買い付け価格は1株当たり5,400円で2月28日の終値より約15%のプレミアム、買い付け代金は約1,094億円の予定である。

殆どの経過措置企業は基準をクリア

東証の3年間にわたる経過措置が2025年3月31日に終了するのを目前に控えて、殆どのプライム上場の経過措置企業は基準をクリアしており、東証によると基準をクリアしていないプライム上場企業は一社のみとなった。

投資家からの圧力による親子上場解消が増える

プライム上場維持を目的とする親子上場解消の動きは終わり、これからはアクティビスト等の物言う株主の影響でコーポレート・ガバナンス改善目的での親子上場解消が増加するとみられる。

親子上場の問題点は大きく分けて三つある。

①経営の独立性が確保されにくい

親会社が子会社の大株主であり、取締役を兼任するケースも多い。子会社の経営陣が親会社の意向に従わざるを得ない状況になりやすく、独立した経営判断が難しくなる。これにより、子会社の株主の利益よりも親会社の利益が優先されるリスクがある。

②利益相反のリスク

親会社と子会社の間で事業取引(業務委託、資材調達など)がある場合、価格設定や契約内容が公正でない可能性がある。M&Aや資本政策においても、親会社が自らに有利な判断を強いるケースが懸念される。これらは少数株主(一般投資家)の権利を侵害するリスクがある。

③社外取締役による監視が機能しにくい

ガバナンス改革の一環で、上場企業には独立社外取締役の設置が義務化されているが、 
親子上場企業では、親会社の影響が強く、真に独立した監視が困難とされることが多い。

親子上場を解消しそうな企業

ここからは親子上場を親会社を解消しそうな上場子会社について紹介する。全銘柄株価とバリュエーションは2025年3月21日の終値により算出している。

①FDK(6955)

企業概要:富士通の連結子会社。(富士通の持株比率58.82%)電池事業と電子事業が主な事業で、電池事業ではニッケル水素電池、リチウム電池、アルカリ乾電池などを製造・販売し、電子事業ではスイッチング電源や各種モジュールなどを手がけている。

親子上場解消に関する見解:過去3年の業績推移は売上はほぼフラットであるが、原材料価格高騰により利益が大幅に減少している。長年無配当で出来高も薄く、時価総額は141億円と小さく、顧客も多くが富士通グループ内であり、外部顧客開拓の可能性も低く、FDKの上場維持コストを考えると親会社富士通によるTOBが期待される。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
408円141億円34.5%0.7%0.1%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
40.2倍0.8倍6.9倍N/A8.2倍

 

②日産車体(7222)

企業概要:日産自動車の連結子会社(日産自動車の持株比率40.7%)日産のRV、商用車の生産子会社。アクティビストのエフィッシモが日産自動車に次ぐ大株主(保有比率29.68%)

親子上場解消に関する見解:エフィッシモは2023年6月、日産車体のプライム市場上場維持基準に関する必要書類の提出を拒否した。​これにより、日産車体は流通株式比率が基準を満たさず、上場維持に課題を抱えることとなった。また、エフィッシモは日産自動車の株式を2.5%保有しているが、リストラ中の日産自動車によるTOBではなく、日産本体のキャッシュフローの改善にもなる他社への事業譲渡を要求していると推測される。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
1,070円1,449億円65.7%0.2%0.4%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
60.4倍0.8倍13.8倍1.2%▲2.8倍

 ​

③ユタカ技研(7229)

企業概要:ホンダの連結子会社(ホンダの持株比率69.6%)排気系、駆動系部品メーカー。北米や南米、アジアに生産拠点。2輪部品も強化中。中国では日本車不振であるが、東風邪日産のEV向け積層モーターコアを受注。

親子上場解消に関する見解:ホンダはグループ再編を進めており、過去に八千代工業やホンダ開発を完全子会社化した経緯もあり(八千代工業に関しては後にインドネシアの自動車部品会社に八割の株式を譲渡)ホンダが完全子会社化する可能性は高い。経営効率の改善、ガバナンスの向上の観点から親会社ホンダからのTOBが期待される。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
2,302円341億円62.6%7.1%7.2%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
13.1倍0.3倍N/A3.1%0.4倍

 

④フォーバルテレコム(9445)

企業概要:フォーバル(8275)の連結子会社(フォーバルの持株比率70.1%)中小企業向け光回線販売が柱。電力小売りや印刷、保険販売などへ展開、光との併売商材開拓中である。

親子上場解消に関する見解:フォーバルとフォーバルテレコムはどちらも中小企業向け通信・ITサービスがメイン。業務領域がかなり近いため、統合で重複を排除しやすい。フォーバルテレコムの株式の流動性は低く、出来高は5,000株にも満たない日も多い。流動性が低過ぎなので、IRの効果も出づらい。事業内容の近さ、コスト、ガバナンス改善の観点から親会社フォーバルによるTOBで完全子会社化が期待される。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
475円80億円30.4%24.1%17.5%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
11.4倍2.6倍4.8倍4.2%0.3倍

 

⑤大阪製鐵(5449)

企業概要:日本製鉄の連結子会社。(日本製鉄の持株比率60.6%)電炉メーカー(スクラップから鋼材を製造)一般形鋼に強み。エレベーター用レールも高シェア。西日本を中心に事業展開。

親子上場解消に関する見解:アクティビストのストラテジックキャピタルが10%強大阪製鐵の株式を保有し、大阪製鐵を日本製鉄の完全子会社化するよう要求している。大阪製鐵を日本製鉄の完全子会社にするのは様々なシナジーがある。日本製鉄は高炉中心で、電炉中心の大阪製鐵を統合する事でコスト効率は生産調整の柔軟性が向上する。原材料調達のスケールメリット、顧客への販売も一本化により効率が上がりコスト削減になる等。親会社の日本製鉄によるTOBで完全子会社化が期待される。

株価時価総額自己資本比率ROEROIC
3,020円1,175億円76.3%2.0%2.7%
予想PERPBREV/EBITDA配当利回りPEGレシオ
32.6倍0.8倍12.8倍1.1%2.9倍