3月に「高成長のAIデータセンターで恩恵を受ける日本企業11選」というレポートで、データセンター運営企業やHBM関連企業について取り上げた。今回はその他のAIデータセンターの周辺銘柄で①電気工事関連銘柄、②変圧器関連銘柄、③液体冷却関連銘柄について書いてみる事にする。
2024年の国内データセンター関連投資は5,000億円の予想
少し古い予測になるがIT専門調査会社のIDC Japanが2023年8月に日本国内のデータセンター建設投資の予測を発表した。この調査はデータセンター建物/電気設備/冷却システムなどの新設および増設にかかる投資金額の調査である。
IDCの調査によると
2024年は2023年の約1.55倍という大幅な拡大となり、5,000億円を超えるものと見込まれます。さらに、2024年から2027年は毎年5,000億円を超える投資規模が継続するとIDCでは予測しています。これは、クラウドサービス向けハイパースケールデータセンターの増設需要が、東京・大阪の郊外で拡大する傾向が継続しているためです。東京郊外では、以前よりデータセンター建設が進められている千葉県以外に、東京西部における建設が増えてきています。大阪郊外では、京都府でもハイパースケールデータセンター建設が進められています。こうした建設需要を見込んで不動産投資マネーが流入しており、データセンターファシリティ(建物、設備)市場に新規参入する企業も増えています。
さらに、建設業界全般にわたる人手不足や、世界的なインフレや原材料の価格によって、データセンター建設コストが上昇していることも、建設投資額を増大させる要因となっています。「クラウドサービス市場の高成長率を考慮すると、建設コスト上昇によってデータセンター投資意欲が縮小するとは考えられない。建設部材や設備機器の納期遅れの影響により、建設プロジェクトが遅れることはあるにしても、建設投資そのものを取りやめるといった事態にはならないだろう」
との事である。
(出所:IDC Japan 国内データセンター建設投資予測を発表)
電力需要は大幅増加
AIデータセンターは通常のデータセンターの8倍の電力を消費すると言われているが、AIの普及とともに電力消費は大幅に増加すると予想される。電力中央研究所によると2021年に9,240億キロワット時だった日本の電力消費が50年に最大で37%増えると予測した。増加幅で最も大きな割合を占めるのは生成AIなどに使うデータセンターでの電力消費である。国際エネルギー機関(IEA)によるとデータセンターや人工知能AI等による電力消費が、2023年の電力消費量4,600億kWhから2026年には1兆kWh以上に達すると予測した。
電気工事需要
AIデータセンター建設には安定した電力供給のために以下のように幅広い作業が必要になる。
①高圧電力の受電設備の設置
②低圧電力への変圧
③無停電電源装置(UPS)の設置
④発電機の設置
⑤配線工事
⑥冷却設備用の電気工事
⑦電力消費のリアルタイム監視
等がある。これら一連の作業の中で変圧、冷却については別個に取り上げる。
電気工事関連銘柄
AIデータセンターの電気工事を手掛ける銘柄を以下にとりあげる。
きんでん(1944)
時価総額:6,596億円
予想PER:19.34倍
企業概要:関西電力グループの総合設備会社。電気設備工事首位級。
電気工事関連事業:きんでんとNTTデータは長年にわたり協業関係を築いており、多くのプロジェクトで連携している。特にデータセンターの建設や運営においては、きんでんはNTTデータの重要なパートナーとなっている。また、NTTグローバルデータセンターと東京電力パワーグリッドが共同で設立したデータセンターの開発会社のプロジェクトの電気工事や設備設置を担当している。
直近状況:2024年3月期は資材価格の高騰はあったが、価格転嫁をする事ができた。受注高は前期比3.8%増の5,604億円、営業利益は同9.6%増の345億円、営業利益率は同0.3pt改善の6.2%、当期純利益は同12.4%増の298億円となり最高益を達成した。今通期の会社計画は売上はフラットの5,600億円、営業利益は前期比7.2%増の370億円、当期純利益は同4.1%増の310億円と最高益更新を予定している。
関電工(1942)
時価総額:3,378億円
予想PER:14.01倍
企業概要:東京電力系の総合設備会社。東電向けは約3割。
電気工事関連事業:関電工はソフトバンクとシャープが協業する受電容量約150メガワット規模のアジア最大規模のAIデータセンターの構築プロジェクトに参加予定である。2024年秋に着工予定、2025年中の本格稼働の予定である。また、関電工は以前より東電パワーグリッド、ヒューリックと協業し都心型データセンターの開発に携わってきた。
直近状況:2024年3月期はきんでん同様関電工も最高益を達成した。受注高は前期比16.1%増の5,725億円、営業利益は同27%増の409億円、営業利益率は同0.8pt改善の6.8%、当期純利益は同29.2%増の273億円であった。今通期の会社計画は売上は前期比0.3%増の6,000億円、営業利益は同▲9.6%の370億円、当期純利益は同▲10.4%の245億円と微増収減益を予定している。
日比谷総合設備(1982)
時価総額:801億円
予想PER:17.04倍
企業概要:空調主体の設備工事会社。NTTグループが最大顧客。
電気工事関連事業:日比谷総合設備はデータセンター構築に関しては創業以来50年以上にわたり電算機室の設備施工をはじめ、稼働中のデータセンターにおいて改修工事を行ってきた。施工実績はおおよそ85万m2(東京ドーム19個相当)にのぼり、業界トップレベルである。
直近状況:2024年3月期決算は大型データセンター案件や大規模再開発案件の受注が好調に進み受注高は前期比20.8%増の1,055億6,000万円となったが、売上は一部案件が翌期に繰り越し計上となり同▲0.3%の837億円、営業利益は同▲3.6%の57億円、営業利益率は同▲0.3ptの6.8%、当期純利益は同3.4%増の48億円であった。今通期の会社計画は売上は前期比前期比8.6%増の910億円、営業利益は同2.8%増の59億円、当期純利益は同▲4.2%の46億円と増収減益を予定している。
ダイダン(1980)
時価総額:1,303億円
予想PER:11.92倍
企業概要:創業100年超の設備工事会社。電気工事、空調工事、水道衛生工事、消防施設工事および機械器具設置工事の設計、監理、施工を手掛ける。
電気工事関連事業:データセンター向け設備工事に特化している訳ではないが2024年3月期は半導体、電池、データセンター向け設備工事が多かった。
直近状況:2024年3月期決算は受注高が前期比22.7%増と大幅に増加の2,531億円、売上が同6.2%増の1,974億円、営業利益は同29.1%増の109億円、営業利益率は同1.0pt増の5.0%、当期純利益は同37.1%増の91億円と最高益を更新した。今通期の会社計画は受注高がほぼフラットの2,500億円、売上が同26.6%増の2,500億円、営業利益は同37.9%増の150億円、当期純利益が同21.1%増の110億円と最高益を更新する予定である。
変圧器の役割
AIデータセンターの運営において変圧器は重要な役割を持っている。変圧器は外部の高電圧電力をデータセンター内で使用する低電圧に変換し、電圧の変動を調整し安定した電力供給を確保する。AIデータセンターでは非常に多くの電力を消費するためにエネルギー効率の向上が重要であるが、変圧器はエネルギーロスを最小限に減らしデータセンター運営のコストを低減する。また、変圧器は電力系統の異常から機器を保護する役割もある。変圧器は複数使用されるが、これにより一つの変圧器に問題が生じた際にバックアップとして機能するようになっている。
変圧器関連銘柄
AIデータセンターに変圧器を供給している主な企業は以下の三銘柄である。
富士電機(6504)
時価総額:1.28兆円
予想PER:16.81倍
企業概要:重電業界四位。パワー半導体を搭載した大型重電機器が主力製品。
変圧器関連事業:AIデータセンターにおいて変圧器、無停電電源装置(UPS)、監視装置等をフルラインナップで電力の安定供給と省エネを目的としたソリューションを提供している。変圧器に関しては特高から低圧まで幅広い容量帯に対応する変圧器のラインナップがある。
直近状況:2024年3月期決算で5期連続最高益を達成した。売上高が前期比9.3%増の1兆1,032億円、営業利益が同19.3%増の1,061億円、営業利益率が同0.8pt上昇の9.6%、当期純利益が同22.8%増の754億円となった。今通期の会社計画は売上が前期比1%増の1兆1,140億円、営業利益が同2.8%増の1,090億円、当期純利益が同1.5%増の765億円と最高益を更新する予定である。
日立製作所(6501)
時価総額:15.54兆円
予想PER:26.1倍
企業概要:総合電機・重電首位。連結子会社770社。インフラ重視、海外事業を拡大。
変圧器関連事業:2020年に日立製作所がABBのパワーグリッド事業を買収し日立ABBパワーグリッドを設立。2021年に社名を日立エナジーに変更し2022年に日立製作所の完全子会社となった。前身会社のABBは100年以上にわたり変圧器技術のパイオニア企業としてデータセンター向けに様々な電力ソリューションを提供してきたが、変圧器のデジタル化を実現し、リアルタイム監視を可能にしている。また、同じく連結子会社の日立産機システムも省エネ効果を発揮する様々なタイプの変圧器を提供している。データセンターには等価負荷率の高い変圧器を提供し、高い省エネ効果を達成している。
直近状況:2024年3月期決算は最高益を達成した前期に比べて減収減益であった。売上は前期比▲10.6%の9兆7,287億円、調整後営業利益は同1.0%増の7,558億円、当期純利益は同▲9.1%の5,899億円であった。今通期の会社計画は売上が前期比▲7.5%の9兆円、調整後営業利益が13.1%増の8,550億円、当期純利益が同1.7%増の6,000億円の予定である。
三菱電機(6503)
時価総額:5.19兆円
予想PER:16.72倍
企業概要:総合電機2位。FA機器、自動車機器、昇降機が収益の柱。パワー半導体や家電も手掛ける。
変圧器関連事業:変圧器、受配電機器、遮断器、無停電電源装置(UPS)等様々なソリューションを提供している。これら電源系だけでなくデータセンターの監視システムソリューションや空調ソリューションも提供している。
直近状況:2024年3月期決算は売上は前期比5.1%増の5兆2,579億円、営業利益は同25.2%増の3,285億円、営業利益率は同1.0pt上昇の6.0%、当期純利益は同84.6%増の6,711億円と過去最高益を達成した。今通期の会社計画は売上が前期比0.8%増の5兆3,000億円、営業利益は同21.8%増の4,000億円、当期純利益は同10.5%増の3,150億円の予定である。
サーバーの液体冷却とは?
サーバーの液体冷却は、コンピュータのサーバーやその他のIT機器の効率的な冷却方法として注目されている。この技術は、従来の空冷方式に比べて冷却効率が高く、エネルギー消費を大幅に削減することができる。液体冷却にはいくつかの異なるアプローチがありますが、主な方法は二通りである。
①液浸冷却:液浸冷却は、IT機器を直接絶縁性の液体に浸す方法。この方式では、液体が電子部品の熱を吸収し、効率的に放熱する。高い冷却効率、省エネルギー、静音が利点である。
②二相式液浸冷却:液体が沸騰して気体に変わる際の気化熱を利用して熱を取り除く。液体が再び液化するときに熱が放散されるため、連続的に効率的な冷却が可能である。
液体冷却関連銘柄
主な液体冷却関連銘柄は以下の三銘柄である。
ニデック(6594)
時価総額:4.21兆円
予想PER:26.05倍
企業概要:精密小型モータの開発・製造において世界一のシェアを維持・継続しており、世界シェアは約11%。
液体冷却関連事業:アメリカのサーバーメーカーであるSupermicro社にニデックの水冷モジュールが採用された事により需要が急増している。水冷モジュールを生産しているタイの生産キャパシティを現在の月産 200 台から 2024 年6月までに月産 2,000 台に拡大すると4月に発表した。
直近状況:2024年3月期の決算は売上が前期比5.3%増の2兆3,472億円、営業利益は同81%増の1.628億円、営業利益率は同2.9pt上昇の6.9%、当期純利益は同238.4%増の1,251億円と最高益を達成した。今通期の会社計画は売上が前期比2.3%増の2兆4,000億円、営業利益は同41.3%増の2,300億円、当期純利益は同31.8%増の1,650億円と最高益を更新する予定である。
NTTデータ(9613)
時価総額:3.17兆円
予想PER:23.62倍
企業概要:NTT傘下のシステム・インテグレーター専業最大手。
液体冷却関連事業:2022年に液浸冷却技術を用いたデータセンター冷却システムを開発した。三鷹データセンターEASTでの実証実験では、冷却エネルギーの最大97%削減を達成した。2023年には既存データセンターで活用可能なサーバー等のIT機器を液体の中で直接冷却する「ラック型液浸冷却システムを三菱重工業と構築した。
直近状況:2024年3月期決算は最高益を達成した前期に比べて増収減益となった。売上は前期比25.1%増の4兆3,674億円、営業利益は同19.5%増の3,096億円、営業利益率は同▲0.3ptの7.1%、当期純利益は同▲10.7%の1,339億円であった。今通期の会社計画は売上は前期比1.4%増の4兆4,300億円、営業利益は同8.5%増の3,360億円、当期純利益は同2.3%増の1,370億円の予定である。
NECネッツエスアイ(1973)
時価総額:3,498億円
予想PER:19.42倍
企業概要:情報通信ネットワークや業務系ICTシステムの構築、施工、運用・保守サービスのシステムインテグレーター、通信工事会社。
液体冷却関連事業:2023年3月にKDDI、三菱重工と協業して液浸冷却装置を開発し、サーバー冷却のために消費される電力を94%削減した。NECネッツエスアイは液浸データセンター向けの設備導入設計と課題抽出および改善。液浸装置、電源設備などの調達、設計、施工を通して課題抽出と改善。統合監視システムの SI設計構築を通して監視、管理、制御手法の検証。最適な保守設計、運用、保守スキームの確立をした。
直近状況:2024年3月期は売上と売上総利益は過去最高となった。売上は前期比12.1%増の3,595億円、営業利益は同10.4%増の251億円、営業利益率は同▲0.1ptの7.0%、当期純利益は同11%増の153億円であった。今通期の会社計画は売上は前期比1.5%増の3,650億円、営業利益は同15.4%増の290億円、当期純利益は同17.4%増の180億円の予定である。