日経MJが発表する「ヒット商品番付」、2023年上半期の東横綱は「5類移行」が選ばれました。
国内の旅行や外食に対する個人需要の拡大、円安を受けたインバウンド旅行者の回復など、経済にポジティブなニュースが増えてきました。さらに企業に拡がる賃上げの動きなど、長らく日本を苦しめてきたディスインフレからの脱却を期待できる環境がようやくやってきたようです。
そんな状況を受けて、日経平均が33年ぶりに32,000円台を回復するなど、株式市場はすっかり明るさを取り戻しています。
一方、J-REITはすっかり取り残された感がありますが、今こそ投資を考えるべき時かもしれません。
FOMO(Fear of missing out)という言葉をご存じでしょうか?「取り残される恐怖」という意味で、相場が上がり、多くの儲かった話が聞こえてくる中、自分が儲けていないことへの焦りから相場に飛び込んで、高値づかみで火傷するというような行動を指します。まさに、「安く買って高く売る」という投資哲学とは真逆の行動です。
現在の局面に当てはめると、今投資を検討すべきは、日経平均ではなく、出遅れの目立つJ-REITかもしれません。では、こういう局面ではどんなアセットタイプを選択するのがいいのでしょうか?
先行きの経済の明るさに賭けるなら、消費の拡大が投資口価格の上昇につながりやすいアセットタイプになるでしょう。
前回(第二回)は、ディフェンシブなアセットクラスとして、賃貸住宅に投資するレジREITと物流倉庫に投資をするロジREITを紹介しました。これら2つのアセットタイプは、物件の賃料収入の変化が小さいことから、投資口価格の変動も比較的穏やかな傾向があります。
今回及び次回紹介するのは、それとは逆に賃料収入の変動が大きくなるケースがある商業施設とホテルというアセットタイプです。ケースがあると表現したのは、賃料変動は、賃貸借契約の形態によるからです。
賃料の全部又は一部が売上や利益に連動する、いわゆる「変動賃料」を採用している場合、賃料変動は大きくなりがちです。一方、「固定賃料」の賃貸借契約であれば、契約期間中の賃料が基本的に変わらない点は、他のアセットタイプと変わりません。
投資初心者の多くは、値動きが穏やかだと聞くと、ディフェンシブなアセットタイプを選好しがちかもしれません。しかし、景気の先行きが明るいと考えるのであれば、その考えが当たった時に利益が上がるような銘柄を自分のポートフォリオに入れておくべきでしょう。
J-REITで言えば、国内の個人消費の拡大や、海外からのインバウンド旅行者が増えた時に利益が増加するアセットタイプ、例えば変動賃料割合が相応に高い商業REITやホテルREITに投資するという手法が考えられます。
売上や利益に連動する賃料を採用している物件を保有していれば、既存賃貸借契約の終わりを待つことなく、即座に賃料収入の増加が期待できます。
もし、変動の大きいアセットタイプへの投資が怖ければ、投資金額を小さくする方法があります。J-REITでは1口単位で投資ができるため、商業REITやホテルREITに対する1口投資から始めるのがいいかもしれません。ポートフォリオの隅にそっと置いておけば、いい仕事をしてくれるかもしれません。
今回は商業REITについて解説します。
1. 世界の商業REIT
商業REITは、個人投資家にとって馴染みのあるアセットタイプだと思います。商業REITが保有する物件は、ショッピングモール、商業ビル、GMS、スーパー、ロードサイド店舗のような商業施設で、皆様が日頃買い物などに訪れる場所です。
J-REITの投資口を保有するという行為は、そのREITが保有する物件の疑似オーナーになることを意味するので、自分のお気に入りの商業施設を保有するREITへの投資を通じてオーナー気分を味わうのも、リート投資の魅力の1つかもしれません。
J-REITが保有する商業物件には、大規模物件も数多くあります。例えば、日本都市ファンドが保有する名古屋にある「Mozoワンダーシティ」は直近の鑑定評価額が642億円、福岡リートが保有する「キャナルシティ博多」は503億円、森トラストリートが保有する「渋谷フラッグ」は411億円です。個人で所有するには巨大すぎますが、REIT投資ならこうした物件の疑似オーナーになることが十分可能です。
個人にとっての馴染み深い一方、J-REITの商業施設に対する投資比率はあまり高くありません。以前紹介した、SMBC日興証券のレポートによれば、商業施設に対する投資比率は14%で、オフィスに対するそれを、大きく下回っています。
しかし、海外REITに目を移すと、日本とは状況がかなり異なります。
北米のREITであるNAREITのアセットタイプ別投資比率(時価総額ベース)を見ると、商業施設は14.3%を占めており、Cell Towersに続く第2位で、オフィスを大きく上回っています。
(Source: NAREIT HP)
投資比率自体はJ-REITと似た数字ですが、NAREITははるかに多彩なアセットタイプを投資対象としており、投資比率が全体的に低くなるため、商業施設に対する投資割合14.3%は大きな数字です。
ちなみに投資比率首位のCell Towersとは、携帯電話基地局のような通信インフラ施設に投資を行うREITです。American Towerという時価総額$910億(約12.2兆円)という1社でJ-REIT全体の約80%に相当するような巨大REITが存在するという事情を考えると、商業施設のNAREITにおけるプレゼンスは主役級と言えるかもしれません。
シンガポールREITを見ても、商業REITは物流倉庫などIndustrialに次ぐ第2位と、大きなシェアを有しています。
(Source: REITAS)
海外では商業REITは、大きなプレゼンスを占めていることがお判りいただけたかと思います。
2. 商業REITの紹介
商業REITの特徴:テナントとの賃貸借期間は長いものが多く、テナントから多額の預かり保証金を預かるケースも多い。リートから見れば、無利子で多額の資金を調達したのと同様の効果を持つことから、高金利局面では大きな強みとなる。賃料については「歩合賃料」というテナントの売上に連動する「変動賃料」が特徴的であるが、J-REIT内の商業REITは安定性を重視する傾向があり、歩合賃料の割合は非常に小さい。
商業施設は景気や世の中の動きの影響を受けやすいアセットタイプであり、コロナ禍でもインバウンド客の減少や、外出自粛による来店客の減少による影響を受けました。
商業REITの保有物件でも同様の事象が発生しましたが、リートの賃料収入が激減したわけではありません。それは、商業REITが採用する賃貸借契約の多くは、固定賃料をベースとしているからです。
固定賃料形態では、売上に関係なく毎月同じ賃料を店舗から受け取るため、店舗の売上減少がREITの賃料収入に直ちに影響を与えるわけではありません (ただし、テナントの業況低迷期間が長引いた場合、賃料の減免や条件変更を強いられるケースがあります)。
これに対して、変動賃料形態の場合、賃料は即座に変化します。言い方を変えれば、変動賃料型の契約は、ポストコロナのリベンジ消費拡大や円安局面で、賃料収入の増加を期待できるということでもあります。
また、経費面では、足もとで進む電気代の上昇が、商業REITに大きな影響を与えました。商業施設の共用部の電気代は、オーナー負担が基本であるため、REITの経費の増加につながったからです。
各商業REITは、こうしたアセットの特性をふまえつつ、賃料形態を含むポートフォリオ戦略を最適と考える方法で実行しています。
現在、商業施設に特化して投資を行うJ-REITは、フロンティア不動産投資法人(8964 FRI)、イオンリート投資法人(3292 ARI)、ケネディクス商業リート投資法人(3453 KRR)の3法人です。
商業REITが保有する商業施設の一例を見てみましょう。FRIポートフォリオの最大物件は「ららぽーと新三郷」、ARIでは「イオンレイクタウン」、KRRは「イーアス春日井」です。ARIはその名の通り、イオングループの店舗を中心とするポートフォリオですが、商業REITで唯一海外物件(マレーシアの商業施設)を保有しています。
かつて商業REITとして国内最大の時価総額を誇った日本リテールファンド投資法人が、2021年3月に合併し、総合型の日本都市ファンド投資法人(8953 JMF)に転換したため、商業特化型REITの数は減少しました。
アセットタイプとしての商業施設への投資を考える場合、3つの商業特化型REIT、またはJMF、福岡リート投資法人(8968 FRC)、阪急阪神リート投資法人(8977 HHR) など、商業施設への投資割合が高い総合型リートに投資をするのが一般的な選択肢となります。
少し毛色が変わったところでは、商業施設の底地を中心に投資を行うエスコンジャパンリート投資法人(2971 EJR)というリートもあります。底地とは建物が立っている土地(建付け地)で、賃料(地代)の変動が小さく、減価償却がない点が特徴的です。
3. 商業施設の賃貸借契約の特徴
商業REITでは「固定賃料」に加え、「歩合賃料」という店舗の売上高に一定割合を乗じて賃料計算を行う契約形態がります。ただし、J-REITでは、安定性確保のため、変動賃料割合を低い水準に留める傾向があります。
3つの商業特化型REITの直近期の売上歩合賃料割合は、FRI0.6%、KRR2.1%、ARIに至っては固定賃料100%(日本の保有物件)であり、賃料変動の影響を抑制しています。これらのリートの賃料の変動余地は限定的で、安定性重視であることが分かります。安定の一方、商業施設の売上拡大期で直ちにアップサイドを得づらい点は残念でもあります。
また、商業施設の賃貸借契約の特徴として、テナントとの賃貸借契約期間が長いこと、及びテナントから多額の預かり保証金を預かることも大きな特徴です。
テナントからの敷金には基本的に金利を付さないため、REITから見れば低利で長期間の資金調達を行ったことになり、その活用は特に高金利時においては強みとなるものです。
例えば、FRIの2022年12月期の決算説明資料によると、賃貸借契約の平均契約期間は19年と非常に長く、賃料の改定までの期間も57.6%が5年超先とされています。
また、テナントから預かっている敷金保証金の合計額は 約284億円で、返還までの平均残存年数は8.8年とされています。借入金等は1,232億円のため、敷金保証金の金額は借入金の約23%の水準であり、同リートでは資産に対する負債比率を示すLTV(Loan to Value)計算において、敷金保証金を分母に入れて計算しています。
商業リートの敷金保証金額は大きいので、LTVを見るときは、敷金保証金が負債に含まれているか否かに注意を払う必要があります。
4. 歩合賃料の説明
売上に連動する歩合賃料が賃料収入に占める割合は、REITによってまちまちです。前述の通り、FRIの2022年12月期の売上歩合賃料比率は0.6%に過ぎず、ほとんどの契約が固定賃料です。
商業施設はコロナ禍の影響を大きく受けたので、歩合賃料比率を見る場合、売上減少により比率が低下しているのか、そもそも低く抑える戦略なのかを見極めることが重要です。FRIの場合、コロナ前の 2019年12月期でも歩合賃料比率は1.1%に過ぎないため、戦略的に賃料の安定性を高める戦略であると判断できます。
一方、総合型REITである福岡リート(FRC)を見ると、変動賃料割合は比較的高く、2019年8月期の変動賃料割合は9.8%、2022年8月の変動賃料割合は10.2%とされています。
同リートの旗艦物件は福岡市の商業施設「キャナルシティ博多」であり、今後インバウンド旅行者が回復すれば、同施設の売上増加を受けた賃料収入の増加が期待できそうです。
ただし、同リートは近年、オフィスや物流施設など、非商業物件の取得に注力しており、商業物件の割合がポートフォリオの50%を下回る見込みとも説明しています。
商業REITへの投資を考える投資家は、歩合賃料の割合を参考としながら、リートを選択することになります。売上増加によるアップサイドを期待する投資家は、変動賃料割合が高めのREITを選択するでしょうし、安定した分配金を重視するなら、固定賃料割合がより高いリートを選択することになるでしょう。
歩合賃料に影響を与える商業施設の業況を知るうえでは、一般社団法人日本ショッピングセンター協会の「SC販売統計調査報告」などの市場データが参考になります。
ただし、大枠をまとめた係数であり、個々の物件の判断に使える細かさではないので、あくまで参考資料です。
商業施設の賃料については、一般財団法人日本不動産研究所の「店舗賃料トレンド」などのデータもありますが、基本的には都市型商業施設が対象であり、個別差も大きいので、リートの資産運用会社が開示するIR資料を中心に分析するのがよさそうです。
5. 商業特化型リートの値動き比較
過去5年間及び直近1年間で、商業特化型リート3法人の投資口価格の動きを比べてみました。
過去5年を見ると、コロナ前までは紫色の東証リート指数が商業REIT3社を上回る局面が多かったようです。コロナ禍では、青色で示された、郊外店舗主体で、国内店舗は全て固定賃料のイオンリート(ARI)が、東証リート指数及び他の2つの商業特化型リートをアウトパフォームしています。
(Source: マネックス証券ツールにより執筆者が作成)
直近1年間の値動きにフォーカスすると、赤色のフロンティアリート(FRI)及び青色のARIが、紫色の東証リート指数をアウトパフォームしており、日銀の金融政策変更によりリート市場が低迷した2023年3月以降は、ARIのパフォーマンスが他を引き離しています。
ケネディクス商業リート(KRR)については2022年10月に公募増資を公表して以降、投資口価格の値動きが他商業REITや東証リート指数を下回る展開が続きました。
ポストコロナで、商業施設の売上が回復局面に入った今後、各社の投資口価格がどのような動きとなるのか楽しみです。
以下に商業REIT及び商業施設への投資比率が高い総合型リートをまとめます。
商業特化型リート (2023年5月29日現在)
Ticker | リート名 | 変動賃料割合 | PNAV (倍) | 時価総額 (億円) | 投資口価格 (円) | 利回り (%) | 決算期 (月) |
8964 | フロンティア不動産投資法人 | 0.6% | 1.04 | 2,580 | 477,000 | 4.51% | 6/12 |
3292 | イオンリート | 0.0% | 1.04 | 3,292 | 155,000 | 4.32% | 1/7 |
3453 | ケネディクス商業リート | 3.1% | 0.93 | 1,466 | 243,500 | 5.40% | 3/9 |
注:ケネディクス商業リート(3453)の変動賃料割合は、金利/CPI連動賃料を一部導入
(Source: JAPAN-REIT.COM, 変動賃料割合は執筆者が各リートのHPから抜粋)
商業施設への投資比率が高い総合型リート (2023年5月29日現在)
Ticker | リート名 | 商業比率/歩合賃料比率 | PNAV (倍) | 時価総額 (億円) | 投資口価格 (円) | 利回り (%) | 決算期 (月) |
8953 | 日本都市ファンド | 61.6%/2.5% | 0.88 | 6,674 | 95,500 | 4.71% | 2/8 |
8968 | 福岡リート | 52.2%/11.7% | 0.87 | 1,270 | 159,600 | 4.51% | 2/8 |
8977 | 阪急阪神リート | 66.7%/1.9% | 0.86 | 1,009 | 145,200 | 4.02% | 5/11 |
2971 | エスコンジャパンリート | 100%/1.6% (底地44.8%) | 0.97 | 400 | 113,900 | 5.41% | 1/7 |
(Source: JAPAN-REIT.COM, 商業比率/歩合賃料比率は執筆者が各リートのHPから抜粋)
6. アイデアブック、アイデアの紹介
商業系リートに期待!! 5/30現在: +3.61%
ケネディクス商業リート(KRR)と福岡リート(FRC)を均等配分でロング。
KRRは分配金利回り5.4%と、時価総額1,500億円クラスでは利回り最上位銘柄であり、インカムゲインが魅力的。FRCは韓国からのインバウンドの増加がストレートに期待できる上、福岡市のオフィス市場の状況も東京とは異なることから、アップサイドに期待。
2023年2月期決算では、大口がテナントが退去した福岡市のオフィスビルの埋め戻しが、想定以上に好調だったとの報告がなされた。
ポストコロナの総合型REIT3選 5/30現在: +0.42%
福岡リート(FRC)を主軸に、商業施設への投資割合が高い阪急阪神リート(HHR)及び日本都市ファンド(JMF)という総合型REIT3銘柄をロング。
FRCと同様インバウンド需要の強い関西の物件を主力とするHHRに期待。日本都市ファンドはインバウンドというよりも、日本人のリベンジ消費に期待。
日本においては依然消費回復局面であり、近い将来日銀の金融正常化に向けて再び金利上昇が懸念される局面もありそうなことから、変動賃料による賃料収入の増加が期待でき、高格付けのリートを選好。