今年も残すところ1か月をきった。10月末には1USD=151円台まで円安になった為替が11月の米国長期金利の低下により反転した。12月7日の日銀の植田総裁の「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になると思っている」との発言から四月よりも早期にマイナス金利を解除する可能性もあり得るとの見方もあり、12月7日のニューヨーク為替市場では1USD=141円60銭まで円高が急速に進んだ。ベースシナリオとしては、日銀は2024年春闘の賃上げ率が十分であると確認後に四月にマイナス金利を解除するとの見方が優勢である。いずれにしても、マイナス金利解除へカウントダウンの状況であり、為替は更に円高が進む事が予想される。このレポートでは円高から恩恵を受ける内需セクターや銘柄について解説する。
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金利動向に左右された10月
前回テーマ投資のレポートを書いたのは10月上旬であったが、それ以降の日本株市場を振り返り、円高が更に進むであろう局面でどのセクターに投資していくべきかについて考えてみたい。
日本株市場は9月半ばにかけて上昇し、日経平均3万3千円台、TOPIXも2,400ポイントをつけたが、その後は下落に転じ10月初旬には日経平均3万円台、TOPIXは2,200ポイントまで下落した。10月半ばには日経平均は3万2千円台、TOPIXは2,300ポイントまで回復したが、その後は米国の金利高止まり観測により下落基調になった。
10月30日、31日に日銀金融政策決定会合が行われた。長期金利の変動幅の事実上の上限を現在の1.0%から、一定程度超えることを容認すると決定したと日銀は発表した。同時に公表した新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の前年比上昇率を23年度から25年度まで全て引き上げた。日銀の決定と展望レポートの上方修正を受けて為替は円が下げ幅を拡大し、長期金利も引き続き上昇した。日経平均は10月30日、31日と3万1千円台を割り込んだ。31日にはドル/円相場は1USD=151円70台まで円安が進み、11月1日には金利は0.97%まで上昇した。
11月に入り金利低下、株価大幅上昇
11月1日に米FRBは金融政策を協議する連邦公開市場委員会(FOMC)で2会合連続で政策金利を5.25~5.50%に据え置く事を決定した。この決定を受けて株高、債券高、ドル安となった。ナスダックは1.64%も上昇した。その後3日に発表された米国の10月の雇用者数は予想以上に伸びが鈍化し失業率はほぼ2年ぶりの水準となり、賃金の伸びも縮小した。14日発表の米国CPI(消費者物価指数)、翌15日発表の米国PPI(卸売物価指数)はともに市場予想を下回り年内の追加利上げ観測が後退し、長期金利が低下、株式市場は続伸した。また、17日発表の米国住宅着工件数は市場予想を上回り3か月ぶりの高水準となり米国経済が大きく落ち込む懸念が和らいだ。
10月の金融引き締め長期化観測から一転し、11月に米国で発表された一連の経済指標はインフレが鈍化している事を示すものであり、年内の追加利上げ観測が後退し、米国株式は3週連続して上昇し、割高感が薄れたテック株、半導体関連株を中心に買われた。日本株式も米国の金利低下、株高、特にナスダックに連動した動きを取り11月20日の取引時間中に日経平均株価は3万3853円をつけ、1990年3月以来、約33年8カ月ぶりの高値となった。懸念されていた米国のつなぎ予算案が14日に下院で、15日に上院で可決され、政府機関閉鎖が回避された事もプラス材料であった。
為替は円高方向へ反転
一方為替市場の動きであるが、11月に入ってからの米国の長期金利低下の動きとともに日米の金利差が縮小した事から円高方向へ反転した。11月13日、1USD=151円91銭水準をつけたあと、米長期金利の低下などを背景に、ドル売り・円買いが進み、11月21日には一時147円台15銭水準と、およそ2カ月ぶりのドル安・円高レベルに達した。その後ドルに買い戻しが入ったが再び1USD=150円台に戻る事は難しそうである。12月1日にパウエルFRB議長が現在の政策金利が「引き締め過ぎと緩め過ぎのリスクはバランスが取れている」と発言し、市場では事実上利上げの打ち止めを示唆したとの見方が広がった。米国の利上げは終了したとの見方が優勢となり、歴史的な円安局面は既に終了したと言えるだろう。週明けの12月4日の為替市場では1USD=146台前半をつけ3か月ぶりの円高水準となった。12月7日の参院財政金融委員会で、日銀の植田総裁は金融政策運営について「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になると思っている」と答弁した事を受けて、市場では日銀が四月より早期にマイナス金利解除をする可能性が浮上し、12月7日のニューヨーク為替市場では1USD=141円60銭まで円高が急速に進んだ。
さらなる円高進行に備えてどのセクターを買うか
為替は既に反転し、これからマイナス金利解除に向けて円高が進行するのが予想されるが、日本株は本格的な円反発に備えてどのセクターを買うべきかについて考えたい。円高で恩恵を受けるセクターであるが、食品、電力・ガス、小売り、紙・パルプ、陸運等が考えられる。これらセクターの中から本格的な円反発に向けて株価上昇余地が大きいと思われる銘柄を選びファンダメンタル分析をしてみる。
①ニトリホールディングス(9843)
企業概要:インテリアの製造、物流、販売のニトリ、ホームセンターの島忠を傘下に持つ持株会社。家電量販店のエディオン(2730)と2022年4月に資本業務提携。ニトリは2023年10月より日経平均株価の構成銘柄になった。2023年4月に米国店舗及びECサイトを閉鎖し、米国から撤退。国内店舗数796店、台湾店舗数58店、中国本土店舗数79店、マレーシア店舗数8店、シンガポール店舗数1店、タイ店舗数1店、香港店舗数1店、合計944店(2024年3月期2Q末時点)
ビジネスモデル:製造小売業(SPA)のノウハウを取り入れ、「海外現在料の仕入れ → 現地生産 → 輸入 →店舗販売 →商品配送」までほぼグループ直営で行う垂直統合型のサプライチェーンを競争力の源とする製造物流小売業である。ベトナムに2拠点製造工場を保有。ニトリ・グループで扱う商品の海外調達比率は90%。(主に東南アジア)商品の90%をプライベートブランドとして開発輸入している。
直近の決算の2024年3月期2Qでは売上高は前年同期比▲1.5%の4,168億円、営業利益は同▲20.1%の551億円、経常利益は同▲19.2%の569億円、四半期純利益は同▲26.1%の380億円であった。連結経常利益において為替の影響が計▲247億円であった。(内訳は仕入為替の影響が▲238億円、在庫為替の影響が▲9億円)海外子会社において決済通貨を米ドルにしており、米ドル高が進んだ今期は為替からのマイナスの影響が大きかった。ニトリは2022年2月期まで35期連続の増収増益決算を達成したが、2023年3月期からは円安の影響等の要因で減益決算となった。ニトリの場合1円の円安が年約20億円の減益要因になるとの会社発表があり、ここから本格的に円が反発し、円高が進めば業績回復がおおいに期待できる。
②エフピコ(7947)
企業概要:食品トレー、弁当・総菜容器の最大手。ポリスチレンペーパー、その他の合成樹脂製簡易食品容器の製造・販売並びに関連包装資材等の販売でマーケットシェアは約3割である。2022年にマレーシアのプラスチック製食品容器メーカー“Lee Soon Seng Plastic Industries Sdn.Bhd."の株式を40%取得し、持分法適用会社とした。同社は食品容器製造の分野でマレーシアでトップのマーケット・シェアを有している。
ビジネスモデル:全国に20か所の生産工場を持ち、製品原料であるポリスチレン樹脂、PET樹脂、ポリプロピレン樹脂を生産ラインに置き、押し出し、成型、型抜き、検品、包装、箱詰め、テープ留め、計量、倉庫へ移動の一連の作業の殆どはロボットにより自動化されている。またエフピコは物流(倉庫業、運送業)も自社で手掛けている。また、物流に関しても配送センターは全国に9か所、ピッキングセンターは全国に10か所ある。また、リサイクルにも積極的に取り組んでおり、リサイクル素材は全体の57%、バージン素材は43%の比率である。
ポリスチレン樹脂、PET樹脂、ポリプロピレン樹脂といったプラスチック系の原料は石油から作られるが、石油/原油の輸入はドル建てなので円安進行は売上原価の上昇、円高進行は逆に低減になる。エフピコの業績を時系列で見てみると以下の通りである。
単位:百万円 | 21/3 | 22/3 | 23/3 | 23/9* |
売上高 | 187,509 | 195,700 | 211,285 | 108,726 |
売上総利益 | 63,920 | 62,671 | 65,463 | 31,628 |
粗利率 | 34.1% | 32.0% | 31.0% | 29.1% |
営業利益 | 18,763 | 15,884 | 16,703 | 6,981 |
営業利益率 | 10.0% | 8.1% | 7.9% | 6.4% |
純利益 | 12,211 | 11,206 | 11,529 | 5,122 |
*23/9は中間決算
上記業績推移を見てみると、売上高は伸びている。(23/9月は中間決算)しかし、粗利率、営業利益率ともに低下している。特に粗利率は売上から売上原価を差し引いた段階なので、円安進行により原料価格が上昇し、粗利益を圧迫しているのがわかる。エフピコはこの期間に原料価格及び電気代の上昇で価格改定を二回行った。しかし、全てを転嫁できてないために営業利益率も低下した。食品容器という市場はディフェンシブで景気サイクルに左右されない業界であり、また、中食(テイクアウト等)市場は成長しており、売上高は大きくは伸びないものの一定程度の成長が期待される。これから円高が進行するとその分原料価格の低減となりかなりの利益増になると思われる。
③東京ガス(9531)
企業概要:都市ガス最大手。電力と合わせ総合エネルギー企業化。電力に関しては小売電力販売件数が新電力としてNo.1である。海外ガス田開発も手掛けている。東京ガスはグループ全体で「LNGバリューチェーン」に取り組み、天然ガスを始めする資源の原料の調達から、輸送、都市ガスの製造、供給、販売、電力供給、エネルギーソリューション提供と続く、一連の事業活動を行っている。
ビジネスモデル:東京ガスは世界中からLNGを調達し、都市ガスとして供給。さらに、保有する設備で天然ガス火力発電を行い、家庭や企業に電力も供給している。都市ガス事業者として、LNG基地や火力発電所、ガス導管などの設備を保有している。これら都市ガスの製造・供給に関わる重要設備は、阪神・淡路大震災、東日本大震災クラスの地震でも十分に耐えられるよう、安全性の高い設計・構造となっている。また、ガス導管を環状化しているため、万が一地震などで一部が断絶しても迂回ルートでガスを供給することが可能になっている。
2023年3月期通期時点のセグメント別売上及び構成比はエネルギー・ソリューション事業 3兆3119.7%1億円(83.7%)、ネットワーク事業(都市ガスの託送供給等)3,703億円(10.2%)、海外事業(海外資源開発・投資、エネルギー供給等)1,599億円(4.4%)、不動産事業 626億円(1.7%)であった。
東京ガスの事業の約84%を占めるエネルギー・ソリューション事業の売上、利益を左右するKPIは都市ガス及び電気の売価、販売量、原油価格、為替である。このうち売上原価を最も左右するのは原油価格、為替である。直近の決算である2024年3月期中間決算の決算説明会資料によると原油価格が1バレルあたり1ドル上昇する事により粗利益に与える影響は通期ベースで▲14億円、ドル/円レートが1円円安になる事により粗利益に与える影響は通期ベースで▲12億円とかなり大きい。ここから為替で円高が進行するとかなりの利益の上乗せが期待できると考えている。
④ニップン(2001)
企業概要:最古参の製粉企業。国内第二位、マーケットシェアは約24%。創業以来、小麦粉・ふすま・そば粉等の業務用製粉事業を行っている。家庭用小麦粉・プレミックス粉(ホットケーキ用ミックス等)・パスタ・冷凍食品の食料品事業は製粉事業の売上の1.8倍、営業利益ベースでは1.2倍である。食品事業では業務用、家庭用冷凍食品が伸びており、特に家庭用冷凍食品市場ではシェアが過去4年の間に42%から63%までシェアを伸ばした。他にヘルスケア事業(サプリ等)、ペットフード事業も手掛けている。1996年にアメリカのパスタ会社を買収し、アメリカ国内で製造、販売も行っている。タイ、インドネシアに連結子会社を設立し、アジアでの事業展開も手掛けている。
ビジネスモデル:ニップンはアメリカ、カナダ、オーストラリア、国内から原料小麦を輸入/調達し、国内8か所の臨海工場に小麦粉に製粉している。原産国割合はアメリカ41.5%、カナダ28.8%、オーストラリア14.3%、国内産15.4%である。外国産原料小麦に関しては政府が買い付けをし、価格は直近6か月間の加重平均で決定し、これに政府管理費、港湾諸経費等を上乗せし政府売渡価格を決定する。農林水産省は小麦の国際相場の変動の影響を緩和するために、価格改定は原則年2回行っている。外国産小麦原料価格決定の要因はシカゴ小麦相場の価格、海上運賃価格、原油価格、為替である。
小麦相場は2022年2月にウクライナ戦争が始まるとロシアは小麦の生産量世界第4位、ウクライナは世界第7位であったために価格は高騰した。2022年4月の政府売渡価格は半年前の価格より19.7%上昇の86,850円/トンであった。6か月後の2022年10月の価格改定時には緊急措置により価格据え置きとなった。2023年3月期通期決算は原料小麦の政府売渡価格の高止まりから粗利率は低下したが、販売価格の改定、生産性の改善、外食・中食需要の回復等により増収増益となった。小麦価格の正常化により、2023年4月の政府売渡価格は76,750円/トン、2023年10月の政府売渡価格は68,240円/トンであった。
2024年3月期中間決算は営業利益が大幅増益の好決算であった。政府売渡価格は前期に比べて大幅に低下したものの、エネルギー価格や物流費の上昇により相殺される部分があったが、粗利率は前年同期比1.4pt改善し、営業利益は売価改定、生産性改善に販売数量の増加で同89.3%増と大幅に増加し、営業利益率は同2.1pt上昇した。
原料小麦の価格は前述したようにシカゴ小麦相場の価格、海上運賃価格、原油価格、為替である。シカゴ小麦相場の価格、海上運賃価格、原油価格は右肩下がりであるが、円安が政府売渡価格を押し上げている部分がある。ここから更に円高が加速すると政府売渡価格の押し下げ要因になり粗利率は改善し、生産性改善に取り組んでいる事もあり利益は大きく伸びる事が期待される。
⑤ラクトジャパン(3139)
企業概要:乳原料・チーズ・食肉・加工食品などの食品原料を輸入する独立系専門商社。乳原料・チーズ、食肉及び食肉加工品等の輸入を主とする卸売及びタイの子会社によるチーズの製造・販売を行う食品事業を営んでいる。新規事業としてプロティンの提案営業も行っており順調に伸びている。売上構成比率は乳原料・チーズ部門が67%、食肉食材部門が10.3%、アジア事業が22.7%である。ラクトジャパンの輸入乳製品のマーケットシェアは約37%である。
ビジネスモデル:アメリカ、オランダ、イタリア、オーストラリアに拠点を持ち食品原料を調達している。乳原料・チーズ部門では海外で調達した乳原料やチーズを日本国内の乳業・菓子などの食品、飲料、飼料メーカーなどに販売。 食肉食材部門では海外から豚肉を中心とした食肉と、生ハム・サラミなどの加工品を仕入れ、国内の食品メーカー、卸売会社などへ販売。アジア事業部門ではタイに自社製造工場を持ち海外で調達した乳製品原料をアジア地域で販売するとともに、自社ブランドのチーズの製造販売も行っている。
2023年11月期3Q決算は、増収減益決算であった。過去数年の間、乳原料に関しては国内で脱脂粉乳が過剰在庫を抱えており主要顧客が輸入品から国産品へと原料を置き換える動きが続いたことから、脱脂粉乳や粉乳調製品の販売数量が減少した。しかし、脱脂粉乳の在庫調整は進んでおり、乳原料の輸入の事業環境は回復基調にある。一方国内でのチーズ販売、食肉食材販売に関しては堅調に伸びている。東南アジア事業に関しては乳原料販売は中国市場の低迷等で厳しかった。しかし、チーズ販売に関してシンガポール、マレーシア等での外食向け需要で堅調に成長した。
ラクトジャパンの場合トップラインは順調に伸びており、全ての食品原料を海外から輸入しているために為替のインパクトが大きい。為替が円高へ反転してからも国内の脱脂粉乳の在庫調整等の要因でまだ株価に反映しておらず、出遅れている状況である。しかし、在庫調整は進んでおり、来年にかけて円高からの利益貢献は大きいと考えている。